3項 フィーバー

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着いたのは中学校からほどなくしてある 昔ながらの駄菓子屋さんだった。 この駄菓子屋さんは いつもなら愛想のいいおばあさんが一人で切り盛り しているが今日はこのご時世だからか 定休日なのか、シャッターが閉まっている。 が、そのシャッターの横には煙草の自動販売機。 この辺が大地は流石だ。 煙草は吸わない。吸うやつはどうかしてる! とかいいながらもあきやの為に煙草のある店は チェック済だ。その辺が抜かりない。 気の回る仲間思いのいいヤツなのだ。 それなのに褒められるのはむず痒いようで 「店閉まってるのに自販機あるなんてラッキー!」 と、あえてチャラけて誤魔化して・・・ あきやの吸うマイセンもしっかりと並んでるあたり おそらくここまで計算ずくなのだろう。 これがこいつの男らしい所だ。 さて、買うかと、バイクから降り おもむろにポケットを漁る。 しかし、そこから出てきたのは相変わらずの 120円。 そういえば今日はこれしかないんだった! さっきは万引きをしてなんとかなったが 今回は自動販売機。 そんなに容易く万引き出来る代物ではない。 せっかく大智が連れてきてくれたが ここは一旦、違うスーパーやコンビニでも 探そう。 そう思い、申し訳なさそうにあきやは切り出した。 「大智、、、すまん。」 「おう!どうしたよ!!」 「所持金が足りなくて、、、。」 その言葉に大智は何を言ってるんだ?と首を傾げる。 そんな大智にあきやは掌の中の120円を見せた。 「確かに、、、足りない、、、」 数えるまでもなく足りないお金を確認するが否や 大智はすぐに返答した。 「じゃなくて!!」 「今日のあきや何かおかしいぞ!?」 そう言うと、あきやを退けるようにどかし 自動販売機の前に立った。 「そんなんこうだろ!!」 ドカン!ドカン!と 慣れたように大きな音を立てながら 自動販売機の腹の部分を何度も蹴りつける。 プラスチック製の透明の壁は蹴りでひしゃげ、 何度も蹴るうちに内側の電子タバコのポスター を照らし出していた内部の壁まで到達した。 【器物損壊】     他人の所有物を破壊してはいけない。     三年以下の懲役又は、三十万円以下の罰金     若しくは科料。     (民事では別で賠償責任を負う) 「はは、、、。」 その自動販売機を破壊する大きな音。 蹴るたびに飛び散るプラスチック片。 それを見てあきやは思った。 「こんな事もしていいんだ。」 今まで色んな悪い事をしてきたあきやだったが どこかでそれは線引きしていた事だった。 学校のガラスは割った事がある。 公共のトイレやスプリンクラーも。 それでも人様のものには手を出してはいけない。 勝手な考えではあったが 国家への反逆とは無関係な人へ 迷惑をかけてはいけない、 そんなちょっとした正義感。 それが崩れ落ちていった。 自動販売機の壁が変形し、 全部のボタンのランプが一斉に点灯した。 と、同時に、ポコポコと様々な種類の煙草が ひっきりなしに出るようになった。 「お!お!」 大智が蹴るのを止め、 出てくる煙草を「やべ〜!やべ〜!」と 言うように、手で受け止める。 しかし、量が多すぎて受け止めきれない。 「あきや!煙草!煙草!!」 大智が必死にあきやを呼ぶ。 山のように溢れる煙草。 抱えるように受け止める大智。 それを見ていたあきやは その姿と、ゲームセンターのスロットの フィーバーと重ね、 出続けるコインに興奮した。 「フィーバーモードだ。」 なんだか全てが吹っ切れた気がした。 同時にこの世界の可能性に胸が踊った。 「大智!!俺、やってみたい事があるんだ!!」 煙草を吸う事も忘れ、 あきやはキラキラした瞳で 大智に告げた。
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