2項 夢

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怪我を引きずりながらも あきやはとりあえず外に出た。 家に居た所でこのムシャクシャは無くならない。 気晴らしにどこかで遊ぶもよし、 誰かを殴るもよし。 気が晴れれば何でも良かった。 しかし、平日の午前中。 店もやっていなければ、同年代の仲間も 学校でみんないない。 起きた時間が9時を回っていただけに 気が乗らないが、 学校へ向かうことにした。 今日も武内に会うだろうか。 『クソガキが!』 今、あの声で文句を言われたら今日こそ ぶん殴ってしまいそうだ。 いや、いっそ殴ってしまえばムシャクシャは 収まるし、 普段のあいつに対する鬱憤も晴れる。 学校も辞めれる。 そう思ったら学校に行く道のりが楽しくなってきた。 そのあきやの期待にまるで答えるかのように 校門の前に行くと武内先生が堂々と立っていた。 登校時間はとうに10時を迎えようとしている。 本来、この時間に先生が校門の前にいること自体が不自然な事。 ワザワザ居る理由が他には見つからなかった。 絶対にカンカンに怒っているに違いない。 あきやに向けて暴言を吐くために待機しているんだ。 人に暴言を吐くのが趣味なんだろう。 でも、今日は言われた瞬間にぶん殴ってやる。 拳に力を込め、 いつでも来い!と構え、 あきやは武内先生に徐々に近づく。 かと言って、根本的に武内の事は嫌いだ。 顔も合わせてたくない。 逃げるのも癪だから堂々と近づきながらも 顔は合わせないよう、基本いつもの無視のスタイルで攻める。 それで文句を言われたら思い切りワンパン! これで顔を見ぬままに行けるハズだ。 そうこう考えているうちに 武内先生があきやの射程範囲に入った。 同時に相手の暴言の射程範囲にも入る。 「おい!」 その瞬間放たれたドスの効いた声。 来たぞ!あきやはそう思いながらも 無視を貫き通し通過しようとする。 「あきや!」 その聞き慣れない言葉に出そうと思った拳が 勢いを止め、あきやは足を止めてしまう。 『クソガキ』じゃない? いつも忌み嫌ったその呼び名。 いざ、それを変えられるとなんだか調子が狂う。 しかし、この後の言葉がもっとおかしかった。 「よく、学校に来たな。偉いぞ!」 校舎のテッペンに掛かる大きな時計は 10時を過ぎた所だ。 「は!?」 ふざけるにも程がある。 思わず無視を決め込んでいたあきやが反応してしまう。 どう考えてもおかしい。 怪我をした事を知っていたとして、 これは喧嘩で出来た怪我。 喧嘩が学校で認められているわけでもない。 遅刻もしている。 現に過去の事例では 『おい!クソガキが!また喧嘩か!そんな事する位ならちゃんと学校へ来たらどうだ!』 こう言われて、傷口をワザワザ小突かれたもんだ。 こいつに限って褒めるなんて事はない。 嫌味か何かか!? 睨みを効かせるようにあきやは振り返る。 しかし、久しぶりに見た武内先生の顔は意外とフランクなものだった。 「お前がな〜。やるじゃないか。俺は嬉しいぞ。 早く中に入りなさい!」 逆に気持ち悪くなるような笑顔を返され、 むしろムシャクシャしてきたあきや。 「頭おかしいんじゃね〜の!」 そんな武内先生を突っぱね 足早に下駄箱に向かった。
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