催眠術ごっこ

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 未歩は無表情のまま答える。 「催眠術の本」  その答えを聞いた瞬間、悠人の顔つきが変わった。  それは、妹のことを溺愛している彼だからこその反応だった。  悠人はこう思った。 (これは妹と遊ぶチャンスかもしれない)  そうして、彼は妹に対してこんな提案をした。 「俺に催眠術をかけないか?」  すると、今までずっと黙っていた未歩が、悠人に視線を初めて向けた。 「いいよ」  と。  こうして兄妹による催眠ごっこが始まった。  かけられるのは、悠人だ。 「じゃあ、お兄ちゃん。あたしの手を見て」  悠人は言われて素直に従う。意識を集中してと言われ、その通りにする。 「3、2、1」  と、未歩は数え指打ちをする。  そして悠人は意識を失ったフリをした。 「え、お兄ちゃん?」  突然の出来事に驚く未歩だが、すぐに冷静さを取り戻す。  それからしばらく待っても、一向に目を覚ます様子のない兄を前にして、彼女は本をパラパラと捲り一つの結論に達した。  どうやら本当にかかってしまったらしいと。 「スッゴイ。この本、本物なんだ」  驚きつつも、嬉しく思う妹は、更に兄に対して試したいことが出てきた。 「お兄ちゃん。ホットケーキ作って」  未歩が言うと、悠人はロボットのように返事をしてホットケーキ作りを行い始めた。料理下手な悠人ではあったが、混ぜて焼くくらいのことはできた。もちろん悠人の演技で、催眠術にかかったフリをしていたのだが。 「うわ~。ホントにかかっているんだ」  そのことに興奮を覚えた未歩の瞳は輝き始めた。  やがて、テーブルで待っていた未歩の前にホットケーキが差し出される。  光り輝く、たっぷりのメープルシロップをかける。  すると未歩は笑顔を浮かべた。
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