催眠術ごっこ

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 食欲をそそる匂いと香ばしい音を響かせる。  完成間近となったところで妹は突然こう言い放った。 「食べよっか」  素っ気なく。機嫌が悪そうに。  そして、皿に盛られたオムライスを差し出してきた。  付け合せにツナと玉ねぎのサラダ。  オニオンスープを作ってしまう。  小学生の家庭科の授業で習っていたのもあるが、未歩が普段からどれだけ家の手伝いをしているのか悠人は改めて思い知らされた。小学生とは思えないほどの腕前に驚かされてしまった。  一通りの準備を終えた後、二人はテーブルを挟んで座った。  二人で同時に合掌をしていただきますと言ってスプーンを手に取る。 「お兄ちゃん」  すると、未歩は悠人の前に手を差し出す。  突然の指打ち。  悠人は、先程の催眠術の再現だと理解し、かかったフリをした。  未歩は悠人の前に手をかざして、本当にかかったのか確かめていた。反応が無いのを確認すると、悠人が固まっている間に、未歩はケチャップを使って文字を書き始める。  それは、ハートマークが描かれたものだった。  "LOVE""大好き!"  と書き示すと、悠人の前にそれを置く。  悠人は驚きの声を上げそうなのを我慢する。  一体どういうつもりなのか。  未歩の方を見ると、恥ずかしそうな顔をして頬を赤らめていた。 「さ。召し上がれ」  と促されて。  悠人は、動揺をひた隠しにし、ロボットのように無表情でオムライスにスプーンを入れた。本当は写真に撮って永久保存したい気持ちを殺してだ。  何口か食べていると、未歩は両顎に頬杖をつきながら悠人の顔を、表情を輝かせながら嬉しそうに見つめていた。  その視線に気が付きつつも催眠術にかかっているフリをして黙々と食べる。  そして半分くらい食べたところで不意に声をかけられる。  それはとても小さな声だったがハッキリと聞き取れてしまった。
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