催眠術ごっこ

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 ダミがかった男の声。  両親がいるかの確認。  悠人は、妹の身に何か起こったのかと思い玄関に走るとそこには、トランクを持った胡散臭そうな男が玄関に腰を下ろして、未歩に詰め寄って居る所だった。  未歩は男に迫られ怯えたように立ち尽くしている。  訪問セールスなのが分かったが、子供相手に何かをサインさせようとしているのを見て、悠人は頭に血が昇ってしまった。 「テメエ! 俺の妹に何してんだ!」  声を上げて割り込む。  男は悠人に気が付くと慌てて立ち上がり、逃げる様に玄関を出て行った。  悠人は玄関を勢いよく閉める。  振り返ると未歩が混乱し、両手の拳を小さな胸の前で合わせてオロオロとしていた。 「え? あれ? お兄ちゃん催眠術にかかってたんじゃ」  未歩は戸惑う。  だが、今は未歩の無事を確認する方が先決だった。 「未歩の方こそ大丈夫なのか!?」  悠人が尋ねると、未歩は少しだけ後ずさりをしたけれど、コクッとうなずいた。  その様子から察するに特にケガなどもしていないようだったので、悠人はホッと一安心をしていた。  しかし、そこでようやく未歩は気づく。悠人が催眠術にかかっていなかったというウソだ。 「ごめん。催眠術にかかってたフリをしてたんだ」  悠人は謝る。  未歩は訊く。 「じゃ、じゃあ。オムライスに字を書いたの知ってるの?」  悠人が頷くと、未歩は顔を赤くして頬に手を当てる。 「何よ。わたしの事騙して、酷……」  言いかけて未歩は、泣き始めた。悠人にすがりつく。 「怖かったよ、お兄ちゃん」  そう言って、ワンワン泣いた。
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