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母親を恐る恐る見ると、憤怒の炎を立ち上らせていた。
父親の方は、ワナワナ震えて、怒りを露わにしている。
怒りの仏・不動明王も裸足で逃げ出すような形相だった。
悠人は表情を引きつらせて、両親をなだめる。
「待って。冷静に俺の話を……」
母さんも父さんも、俺の事を誤解しないでくれ。
と弁明しようとした。
だが、遅かった。
「このロリコン野郎!」
悠人の頬に、母親の鉄拳が炸裂する。
後ろの重心を前に移すと同時に、腰を回転させ、左腕を引く。右脚を回転させ、とどめに右踵を浮かし、重心を前に移す。
パンチが当たる瞬間に拳を握り込み、そこにもう一歩パンチを捻じ込む。
渾身の右ストレートだ。
悠人は吹き飛ぶ。
ボクシング、元日本女子ミニマム級チャンピオンの放つパンチは強烈だ。
ダウンしたかったが、その前に父親が悠人をホールドすると、悠人を前かがみにした状態で、父親は悠人の横に立つ。
父親は、悠人に対し腰側にある右脚を悠人の手前側にある脚に絡め、残りの左脚を悠人の頭部に引っ掛けた状態にし、悠人の右腕を背中側に直角に曲げ、自らの片腋に抱え込んだ。
現役プロレスラーの行う卍固めだ。
「悠人貴様という奴は」
悠人の全身の骨と関節が聞いたこともない音で悲鳴を上げ、口からは文字にできない言語が漏れ出る。
悠人は必死にもがくが、全く抜け出せない。漫画で読んだプロレス技は見せかけだけだと言うのはウソだと痛感する。
そして、プロレスこそが最強の格闘技という、プロレス最強論は真実だと思った。
意識が切れた。
目が覚めると悠人は、病院のベッドの上に寝かされていた。
目の前には父親と母親、未歩が居た。
未歩は心配そうな顔をし、両親は申し訳無さそうな顔をしている。
「すまん悠人」
父親は頭を下げた。
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