催眠術ごっこ

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 玄関のドアが、外側に向かって開いた。  狭い玄関に狭い廊下。  昨今の住宅事情では珍しくもない間取り。  そこに、気怠(けだる)い声を上げながら、一人の少年が自宅の玄関を開けて家へと入って行く。  目元が釣り上がっており、どこか近寄り難い雰囲気を感じさせる顔立ちをしている。野良猫の様な、その表情は、彼の生来の性格から来るものなのだろう。  学生服の上から第二ボタンまでを外し、少し着崩した制服は、彼の通う学校の校則に違反しており、教師や両親からは度々注意を受けているのだが、彼は一向に改める気配はない。  彼の名前は石原悠人(いしはらゆうと)。  この春から高校二年生になる、至って普通の男子生徒だ。  悠人がリビングに行くと、ソファーに座って本を読んでいる女の子の姿があった。  彼女の名前は、綾瀬(あやせ)未歩(みほ)と言う。小学5年生だ。  悠人とは血の繋がっていない妹だ。  普段から口数の少なく大人しい性格をしている。  ネクラかと言えばそうではなく、クラスでも友達は多い方で人気者だったりする。  腰の下まである長い黒髪をポニーテールにし、顔立ちも幼いながらも整っており、美少女と言って差し支えない程に可愛らしい。  悠人の母親と、未歩の父親が結婚したことで、互いの連れ子だった二人は自動的に兄妹となった。  だが、悠人は名字を変えたくないという意向を示したことで、《石原》という姓を名乗っていた。  そんなことがあったのが、ほんの一ヶ月前。  悠人と未歩はケンカをしたことはなかったが、突然できた兄と妹に戸惑いを隠せないのも無理もないことだった。  兄の帰宅に気づいた妹だったが、読書を中断することはない。  本を読みながら目もくれずに、おかえりとだけ呟くだけだった。  愛想がなかった。  しかし、それでも悠人は、むしろそんな妹の姿を可愛いと思っていた。  何故なら悠人は、重度のシスコンになっていたからである。
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