ステルプレナチェロ・キャッスル

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ステルプレナチェロ・キャッスル

次の日、エマは自分の体より少し大きなスケッチブックを持って昨日キースと出会った丘へと出かけた。 「おはようエマ!お、あのお城の絵をキースにみせるのかい?」 途中でルルがエマの隣に並ぶ。 「おはようねルル!そうよーあのお城の絵!」 「僕あの絵お気に入りだな〜」 「私も描いたなかで1番好き!」 おしゃべりしているとあっという間に丘につく。 白い花が歓迎するようにさわさわ揺れる。 キースは丘に座り、昨日と同じように大きな白い紙に向き合っている。その横顔はとても真剣だ。少し長めの金髪が花と同じように揺れた。 エマは声をかけるのを忘れてその顔を見つめていた。 「おや」 キースがエマに気づく。 「あっ、おはよう!」 とエマは少し緊張しながら挨拶をする。 「おはようキース〜」 対してルルはほがらかに挨拶をする。 エマとルルはキースに駆け寄る。 「エマ、ルル、おはようございます。」 キースはさっきの真剣さはどこへやら、のんびりと気の抜けた声で挨拶した。 「今日もいい天気ですねぇ。気持ちいいです。」 キースは相変わらず独特な話し方をする。エマは彼の話し方が気に入った。 「そうね、春は過ごしやすくて好きよ。」 エマはキースの隣に腰掛け、スケッチブックを開く。 「お?昨日言ってた絵を見せてくれるんですか?」 「うん!みて〜」 エマが開いたのは美しい城が描かれているページだ。屋根は黄色、背景の夜空は青色、青緑色や紫色で美しく(えが)かれ、色とりどりの星が輝いている。手前の大地には白い花がいくつも咲いている。ほんのり光を発しているように工夫して描いたのがエマの自慢だ。 「ほぉぉこれは美しい…この花は『ブランカフロロ』!まるで妖精が舞っているみたいです!そして星空!本当に美しい。エマの長くて輝く銀髪、このキラキラの星に似ていますね!城は純白なんですね。すごくいい色だ。この絵を君が?すごいですね!」 キースの言葉はエマを喜ばせた。 エマの父親は家にいても書斎にこもって仕事ばかり。母親は趣味のガーデニングに夢中でエマの絵に見向きもしない。エマはルルと出会うまでずっとひとりぼっちだった。 ルルと出会ったのは2年前、エマが5歳の頃。よく晴れ、春も近づいてきたある日、エマは妖精の少年が白い花の周りを飛んでいるのを見つけた。それがルルだった。お互い最初は驚き、見つめ合ったまま声も出なかった。エマは少しずつ話始めた。そして一緒に遊んだ。ルルによれば妖精が見えるのは溢れるほど大きな夢をもつ純粋な子供だけで、大人には見えない。エマはおとぎ話の中だけだと思っていた妖精が目の前に現れ、驚きはしたものの、とても嬉しい気持ちだった。 キースもルルが見えるため、夢をもっていると思われる。きっと純粋で素敵な夢を持っているのだろうとルルは思った。 「これは私が5歳の頃に描いた絵なの。まわりに咲いている花はもちろんブランカフロロ!お城はね、『ステルプレナチェロ・キャッスル』って名前をつけたわ!」 「ステ、プ、チェロ、ナ?」 キースが聞き返す。 「ステルプレナチェロ!本で読んだんだけど、どこかの国の言葉で、『星空』って意味らしいの。空にも大地にも星があるみたいでしょ?この名前がぴったりだと思ったのよ。」 エマが説明する。ルルはうんうんと横で頷いている。 「つまり『星空の城』ってこと!」 ルルが言う。 「ほぇぇ良い名前です。絵も名前も気に入りました!」 キースは2人に笑顔をむける。 「へへへ、ありがと!」 エマは嬉しそうに笑う。 「私ね、いつか愛する人と一緒にきれいな星空をみたいの。空の星も大地の星も一緒に見たいわぁ。」 「それはいい夢ですね!」 「キースも夢あるんでしょ?妖精が見えるのは溢れるほど大きな夢をもつ子供だけなんだ。でもキースは僕が見えるから何か大きな夢を持っているはずだよ。まぁ答えたくなかったら言わなくて大丈夫だけど。」 ルルがキースの前でふわふわと飛ぶ。 「ミーの夢ですか。人を幸せにできる絵が描きたいですね。ミーの絵をみて、みれて良かった、前向きにいこうって幸せを感じてほしい。」 「おーそれは素敵だ!」 「うん、素敵だわ!きっと叶えられると思う!だって私、キースさんの絵をみて素敵!見れて良かったって思ったもの!」 エマはキースが持っている白い花が描かれた絵を指差して答えた。 「うれしいです、ありがとう。」 3人はお昼になるまで楽しく過ごした。 「さて、ミーは町にいきます。今まで描いた絵を売りに行くんです。」 キースはゆっくり立ち上がる。 「もう行っちゃうの。私もお昼ご飯食べに帰らなきゃ…また明日、かな?」 エマも立ち上がる。 「うん、また明日きます。明日もエマとルルに会えると嬉しいです。」 「もちろん、また来る!」 「僕も!エマとは午後も遊ぶけど、キースはまた明日だね。」 2人はキースに手を振った。そして、それぞれの目的地へとむかう。 エマはキースを振り返る。片付けを終えたキースは町へと向かっていく。丘の反対側へおりてしばらくいくと町がある。まだ幼いエマはあまり行ったことはない。 エマはキースの頭が丘に隠れて見えなくなるまで見送ると、先に行ったルルを追いかけて、家の方へと走って行った。
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