1人が本棚に入れています
本棚に追加
3
朝の支度はゆとりを持って。家を出る一時間半前には起床して、2階の自室から、1階へと下りていく。台所で母さんが朝食の準備をしてくれていた。父さんの出勤はもっと早いため、もう朝ご飯を半分程食べ終わっていた。
「父さん、母さん、おはよう」
リビングに入って挨拶をすると、二人から、おはよう、と返ってきた。
「誠一、朝ご飯もう食べる?」
「あっ、先に顔を洗ってくるから、テーブルに置いててもらえると嬉しいかな」
笑ってそう言うと、母さんは嬉しそうに、分かった、と返事をした。
洗面所で支度を終えて、朝食を食べていると、
「はい、お弁当。忘れずに鞄に入れてね」
といつものように渡された。たまには学食で食べたい、という言葉を1年の時から飲み込んでいる。言えばいいと自分でも思う。だけど、僕の空っぽの弁当箱を見て、満足そうな顔をしている母さんの顔を見たら、そんなことすら言えなかった。
食後にゆっくりとお茶をすする。何をするわけでもなく、ただボーとしながら。時計を見ると、ちょうどいい時間だった。
「そろそろ時間だから行ってくるね」
母さんに声をかけて、席を立って玄関に向かう。母さんがパタパタとスリッパを鳴らして、後ろからついてくる。
「誠一、忘れ物はない? ハンカチとティッシュは持った?」
「全部持ったよ。大丈夫」
いつもの台詞を聞きながら、靴を履いて立ち上がり、母さんに微笑みながら答えた。
「そう。良かった。気をつけていってらっしゃい」
「うん。いってくるね」
玄関のドアが後ろで閉まる。僕は漸く朝の日課が終わった、と小さく溜息を吐いた。
最初のコメントを投稿しよう!