Due.招集

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「レオナルド、お前ぇ本当に顔が広ぇな」  そう驚きを隠さず言ってきたのは親父だった。俺はそれに首を振って否定する。 「だから本当に違うって。カルロとは確かに知り合いだけど、ジュリオと、申し訳ないけどロレンツォとも初対面だっての」 「しかし、ジュリオが気を許すなんて稀だぞ」  反論する俺にロレンツォが続けざま言葉をぶつけた。 「それってどういう意味?ていうかジュリオ、お前も好き勝手言われてるんだから何か言い返しなよ」 「……何か?」  相変わらずジュリオはポツポツとしか喋らないし、無表情だ。こいつ無口と無表情のせいで怖がられているみたいだけど、寡黙というよりぼーっとしてるだけなんじゃないか? 「ま、レオンなら誰とでもすぐ仲良くなれちゃいそうではあるけど」 「あら、褒めても何も出ないワヨ」 「おい、その気持ちワリィ喋り方やめろ!」  クスクス笑う俺とカルロに渋い顔をしながらアミルカレが苦情を飛ばしてきた。そのまま不機嫌ついでにその足を乱雑にローテーブルに投げ、大体よぉと鋭い視線を親父に向ける。 「あのチビと気取り坊ちゃんはいつ来んだよ?俺もジュリオもよぉ、呼び出しだってんで急いで来てやったのによぉ」 「メリダは来ているぞ、今ホテル側の人間と話を付けている。……アミルカレ、足を降ろせ」  親父の代わりに答えたロレンツォが渋い顔で言うが、アミルカレは舌打ちするだけだった。 「でも君、来てから十分も経ってないんだから」  そんなにイライラするなよ、とカルロがアミルカレをニコニコしながら諭す。しかし目が笑っていないのを見ると、カルロも大分キているようだ。  アミルカレは舌打ちと、今度はため息もセットで足を下ろし、代わりに紙巻きを燻らせ始めた。  あ、俺も吸ってる銘柄だ。そう思った時にはじっとアミルカレを見つめていたらしく、今度はその赤い瞳の矛先は俺に向かっていた。 「あ?何ガンつけてんだ、ぁあ?」  ガタイがいいことも相まってアミルカレが凄むと迫力がある。確かに俺も見つめちゃってたけど、これじゃどっちがガン飛ばしてんだか。  呆れのため息を飲み込んでソレ、と顎で手元のタバコを指す。 「俺もソイツがお気に入りだからさ、うまそー、なんて思っちゃっただけ」  そう言って手を伸ばし、ひょいとアミルカレの吸いさしを取る。一口だけ貰ってから持ち主のお口へ返却すると、肝心のご主人はポカンと俺を見ていた。  あ、やべ。相手はあくまでも幹部だ。あまり生意気な真似をするもんじゃない。  なのに。いつもの癖でやってしまったことに俺が後悔するよりも早く、ぽいっと何かが投げてよこされた。  驚きながらもうまくキャッチできたそれは、低タールを謳うタバコの箱だった。 「……欲しいならよぉ、口で言やぁいいだろうが」  アミルカレは相変わらず顔はしかめっ面だが、攻撃性、みたいなものが感じられなくなっていた。  あら、不器用さんなのかしら。……なんて茶化したらまた怖〜い顔で睨まれるので、笑ってしまうのを堪えながら箱を受け取った。 「ありがと。やっぱマールボロやウィンストンより、こっちだよね」  親父をちらりと見て、頷いたのを確認してから火をつける。吸い込むとバニラと芳しい独特な香りが鼻に抜けた。やっぱ美味い。ああ、でも。 「でも吸うならやっぱりキューバの、なんて考えてそうな顔だね」 「ンー、いぐざくとりー……って、あ」  俺の左手からするりとタバコが攫われたかと思うと、灰皿に押し付けられる。その手の先、後ろを振り返ると"先生"の顔をしたメリダが覗き込んでくるように立っていた。 「ハーイ、ミスタ。会議はもう終わったのかしらん」  自分の顔が引き攣っているのを感じながらもウインク付きで返してみれば、さらにため息が降ってきた。 「まったく悪いことばかり覚えがいいね、レオ」 「マフィアのお幹部様に言われたくないよ」  俺の言葉にメリダは一瞬虚をつかれたような顔をして、そして眉を下げて笑った。 「これは一本とられたね」  子供にそうするように、俺の頭をぽんぽんと撫でる。やめろと口を開きかけて、閉じた。  メリダの背後に見える入口から、不機嫌な顔をした男が靴音を響かせながら近づいてきていた。その視線は鋭く俺を貫いている。  気のせいかとも思ったが、目が合った瞬間にさらに角度が上がったから間違いない。 「全員揃ったみてぇだな」  あの怒れる紳士はだあれ、と問う前に親父が切り出した。 「お待たせしました。……カルリト」  メリダは最後にやってきた男に視線を向ける。カルリトと呼ばれたこの男も幹部の一人なのだろうが、なぜそんな呼ばれ方なんだ、と首を傾げる。するとカルロが服の袖を引っ張った。 「ん?」  見ればカルロは自分に親指を向けていて、意味を察した。  "カルリト"は"カルロ"の愛称だ。 「ワオ、ややっこしいのね」 「そういうこと」  ま、カルロなんてよくある名前だし周りに二人いてもおかしくはないけど。なんというか、だからって一人だけ愛称呼びなのは少し可哀想な気がするな。  ふともう一度カルリトの方を見る。メリダの呼びかけに目だけで反応して、迷うことなく親父と真反対の、テーブルを挟んだ一人がけのカウチにどっかりと座り込んだ。  そんなふてぶてしい態度(俺が言えることじゃないが)にメリダは何の感想も反応も返さず、親父の隣に座る。  ついにファルネーゼ家の幹部が全員集合した。それを合図だとでも言うように全員の空気が変わる。重々しく幹部会議が始まった。   Due.招集 END
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