序章 3 幼なじみ

3/4
前へ
/195ページ
次へ
「賑わってるね」 「ん? ああ。もうすぐ聖女選定祭だからなぁ」 「! そういえば、昨日も一緒に捕まったひとが言ってたわ。地方から来た聖女候補だって…………何?」 「いや、本当にごっそり記憶がないんだなぁと思って。歩いたら何か思い出したとかさ、ない?」 「残念ながら」  ふるふると首を横に振る。  当初の予定通り、記憶はスッパリなくしたことにしたほうが都合がいい。  直行した冒険者ギルドでは、『照合の石板』と呼ばれる道具に手を当てるだけで、あっさり登録内容が判明した。  ルークの言った通りの名前に年齢。職業はシーフ兼治癒師。冒険者ランクはC。この若さなら妥当なところだろう。  ルークは受付嬢に「固定パーティは?」とも尋ねたが、カウンター向こうの女性は困ったように微笑んだ。 「申し訳ありません。ティナさんが最近達成されたクエストは直近でも半年前。単独での希少薬草の採取です」 「その前に組んでた連中は?」 「つど、クエストに応じて変わっていますね。主な探索域はユガリア(ここ)ではないようですし。その先は何とも……」  力になれなくてごめんなさいね、と、暗に『お引取りを』と匂わされてしまう。  ――うん。必要な情報は得られたし、今後もこの体でいる間はふつうに利用したい。  出禁を言い渡されそうな雰囲気に、私はさっさとルークの首根っこを引っ張っていくことにした。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加