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きょろきょろと辺りを見回す。
不本意だが、まずは人間の街を目指そう。
この体の知り合いや家族と出くわすかもしれないが、そのときはそのとき。記憶を無くしたフリをするしかない。
「まったく。この娘もどうしてゾアルドリアなんぞに利用されて……。『私』が入れたってことは、つまり、そういうことなんでしょうけど」
スライムは去ったので、よいしょ、と荷袋を担いで立ち上がった。身ごなしは悪くない。比較的機敏なようで、そこそこ高レベルの盗賊職かとも考える。
それなら、宝をちらつかせられれば多少の危険は犯してしまうのかもしれない。
こんなねちっこい罠で、自分を陥れたかった魔族とは。
かつ、通常ならばよぼよぼの魔王が新しい器を得るために行うような秘術を、一瞬で展開できる手練れとは……?
考えれば考えるほどドツボにはまるようで、今はわからないことだらけ。ぶんぶんと頭を振る。
「ううっ。先代の側近はみんな私に膝を折ってくれたわ。従順そうだったのに。ゾアルドリアめ。戻ったら絶対、とっちめてやる……!」
ムカムカと悪態をつき、魔物の気配が薄い方向を探る。
(ん? 煙?)
それは丘陵地の麓。濃い緑の向こう側。
晴天に薄雲のように立ちのぼる、一筋の白灰色があった。
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