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「あたしたちは、こう見えてリューザ神の巫女なの。地方神殿の出身でね。これから『聖女』の選定を受けるために王都へ行くはずだったわ」
「聖女って!? あの……『勇者』と対になる?」
「そりゃあそうよ。常識でしょ」
いささか毒気を抜かれたように、巫女が苦笑を深める。さすがに呆れられたかもしれない。
が、頭のなかでは不慮の事態と紙一重の幸運かもしれない状況を、冷静に吟味する自分がいた。
(聖女。王都。つまり、新たな『勇者』はこれから選定される……。伝説でも謳われてるわ。“ひとりの魔王に勇者はひとり”――ということは、ゾアルドリアは即位したのね。ならば、理想は彼女たちの伝手を使って勇者一行に潜り込んで……いやいや、とにかく外のならず者たちを殲滅しないと)
「ねえあなた、名前は?」
「はいっ!? ああああ、な、名前?」
考え事の最中に突然名を問われ、慌てふためいてしまった。
えーと、名前。名前……。
魔族の名前がどれくらい知れ渡ってるのかはわからない。言うわけにはいかないな、と逡巡した隙に、ガクン! と馬車が揺れた。全員の顔がこわばる。
「どうしましょう。奴ら、もう略奪を終えたの? もう少し行けば、城塞都市のユガリアだったのに」
ユガリア。
古くから人魔大戦の最前線となりやすい、広い平原と大河を擁する大都市だ。
頭のなかでようやく現在地がわかった反面、この辺りには奇岩窟がいくつもあるのを思い出す。直感的にあいつらのアジトも近いと悟り、至極渋面となった。
と。そのとき。
分厚い幌の縫い目越しに閃光が漏れでて、唸る轟音。落雷に似た衝撃に、馬車が急停止した……!
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