序章 2 君の名は

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 迫る地響き。(とき)の声。  幌布をめくると、焦る野盗たちが次々に矢に射抜かれていた。たちまち押し寄せる白銀の甲冑騎馬隊と翻る旗に、巫女たちが喜色を顕にする。 「やったわ! ユガリア騎士団よ!」 「良かった。助かったのね? ああっ」 「…………うそでしょ。これは……」  きゃあきゃあと泣いて喜ぶ巫女たちのなかで、なぜか茫然と表情をなくす女性がいた。布を離して素手で頬に触れる、年嵩の巫女だ。  彼女は、きっ、と視線をあらため、通りすがりの旅人である自分に掴みかかってきた。 「あなた、どこの誰なの? 教えて、名前は」 「え、う、いや、だから、その」  うまく偽名を思いつけず、しどろもどろとしていると、ばさりと布が開けられて外の光が差し入った。眩しさに目がくらむ。  失礼します、と礼儀正しく告げた若い騎士は次の瞬間、年相応に声を裏返らせた。 「ティナ……? ティナか!!? ちょ、おいっ。どうしてこんなところに」 「『ティナ』?」  まっすぐに注がれる明るい緑の瞳。  驚いた顔は素朴にも見える。  年の頃は、この身体と大して変わらないだろう。  そんな若い騎士がどかどかと馬車に上がり込み、巫女から奪うように肩を掴んで覗き込んできた。 「お前、一体どこ行ってたんだ……! 覚えてないのか? 俺だよ。隣に住んでた……幼馴染だった、ルークだ」 「まあ! あなた、ティナさんと仰るのね」 「え、あ、はい……?」  急転直下。  まごつく私を差し置き、知らない若者と周りの巫女たちは、異様な盛り上がりを見せていた。
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