52人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
迫る地響き。鬨の声。
幌布をめくると、焦る野盗たちが次々に矢に射抜かれていた。たちまち押し寄せる白銀の甲冑騎馬隊と翻る旗に、巫女たちが喜色を顕にする。
「やったわ! ユガリア騎士団よ!」
「良かった。助かったのね? ああっ」
「…………うそでしょ。これは……」
きゃあきゃあと泣いて喜ぶ巫女たちのなかで、なぜか茫然と表情をなくす女性がいた。布を離して素手で頬に触れる、年嵩の巫女だ。
彼女は、きっ、と視線をあらため、通りすがりの旅人である自分に掴みかかってきた。
「あなた、どこの誰なの? 教えて、名前は」
「え、う、いや、だから、その」
うまく偽名を思いつけず、しどろもどろとしていると、ばさりと布が開けられて外の光が差し入った。眩しさに目がくらむ。
失礼します、と礼儀正しく告げた若い騎士は次の瞬間、年相応に声を裏返らせた。
「ティナ……? ティナか!!? ちょ、おいっ。どうしてこんなところに」
「『ティナ』?」
まっすぐに注がれる明るい緑の瞳。
驚いた顔は素朴にも見える。
年の頃は、この身体と大して変わらないだろう。
そんな若い騎士がどかどかと馬車に上がり込み、巫女から奪うように肩を掴んで覗き込んできた。
「お前、一体どこ行ってたんだ……! 覚えてないのか? 俺だよ。隣に住んでた……幼馴染だった、ルークだ」
「まあ! あなた、ティナさんと仰るのね」
「え、あ、はい……?」
急転直下。
まごつく私を差し置き、知らない若者と周りの巫女たちは、異様な盛り上がりを見せていた。
最初のコメントを投稿しよう!