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序章 3 幼なじみ
ティナ・エレアランド。十七歳。それがこの身体の本来の持ち主だという。
“ティナ”の響きは本名の一部と同じだったため、違和感は大して仕事をしなかった。その点に関しては不幸中の幸いと言える。
が、“魂魄転移陣”を仕掛けられた時点で状況は最悪。現在も災難は続行中。「幸運」とは死んでも思わないことにする。
――――――――――
あのあと、ティナは記憶もなく身寄りのないものとして神殿に預けられそうになったが、旧知と言い張るルークによって騎士団舎に連れて行かれた。
一見男所帯である団舎にも、女中や女騎士が生活するための棟があるという。しばらくはそこで暮らせばいいと。
また、冒険者稼業に身をやつしていたらしいティナには痛ましい視線を向け、なるべく早くにユガリアでの仕事や住まいを探してやるから、と言われた。
「どうして?」と問えば、「いやだって。放っとけないだろ」と、唇を尖らせる始末。
そのくせ団舎を案内するときはしっかり手を繋いで来るあたり、この娘は幼年時代、よほど危なっかしい存在だったらしい。
(幼馴染、か。私にもそんな奴はいたけど。こんなに過保護だったっけ……? 人族との差かしら)
ふわふわと靡く銅色の髪。海のような青い瞳。抜けるように白い肌。すらりと伸びた華奢な手足。薄い肢体。
人界においてはなるほど、庇護欲をかきたてられるのだろう造作を通路の大鏡で確認して、ちょっとだけ納得した。
――魔族的にはひたすら「弱そう」。その一語に尽きるのだが。
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