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そうして翌朝。
さっそく私服姿で現れたルークに女子棟の面々が騒ぐなか、ティナは強引に街中へと連れ出された。休暇を申請したのだという。
簡素な庭を過ぎた門扉を開ければ、正面はユガリアの大通り。ざっと見て左手が領主館や貴族の住宅街。右手は市や各種ギルドのひしめく一般区画と教えられ、こくん、と頷く。ルークは迷わず右に進んだ。
「ひょっとして私の仕事探し? 住むところとか」
「まあそんなとこ。とりあえず案内しようと思って。それに、冒険者ギルドならティナの記録も残ってるかもしれないだろ? 最近の顔見知りとか」
うーん、と気のない返事をすると、複雑そうな面持ちで見つめられる。
ルークは手のひらを上衣の裾でごしごし拭うと、おもむろに「ん」と差し出した。
――手をとれ、という意味だろうか?
困惑気味に問いかける。
「あの……私、小さいときもあなたに、こんな風に世話を?」
「いや。逆。どっちかってえと、あのときできなかったことを今してる」
「え」
反射でパッと見上げると、実にきまりが悪そうに目を逸らされた。焦げ茶色の髪がかかる耳の上辺まで赤い。なんというか、見てはいけないものを見てしまったような……。
つまり、幼少時は素直に振る舞えなかったということ?
人族って、わからない。
妙な辿々しさが満ちて、じれじれと居たたまれない。嘆息まじりに目を瞑る。
(ごめんね。『ティナ』じゃなくて)
こっそり胸中で謝った。
繋いだ手は、かさりとしている。
『ティナ』の手の小ささを実感した。
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