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序章 1 ここは何処?
ああ。どうしてこんなことに。
目の前には、じつに長閑な景色が広がっている。見渡す限りの草。草。なびく大草原。青々と映る山並みの手前、その地平まで。ゆるやかな丘陵地帯も横手に見えるものの、向こう側に何があるのかは定かではなかった。
――というか、ここ、どこ?
「起きたら野外でした」なんて洒落にならないでしょう。
ねえ、私、そんなにへまをした? と、見慣れない手のひらを凝視する。
知らない場所、知らない体。混乱する記憶。
そうして、愕然と思い至る。
『私』は……誰?
「え、うそ。記憶?」
ごくっと喉が鳴り、慌ただしく立ち上がった。
頭を左右に振ると、短い葉っぱがはらはらと剥がれ落ちる。手櫛で整え、指先で透き通る髪色に違和感を覚えた。
艶のある銅色をしている。質感はふわふわと波打ち、肩下まで届くか届かないか。服装は膝上丈の簡素なチュニック。周囲の草地に溶け込みやすいスモーキー・グリーンの布地にはこれといった装飾がなく、脚にぴったり沿った黒いパンツ。茶色のロングブーツに荷袋。腰には短剣。
年頃の娘らしさや色気は皆無だったが、しゅるりと鞘から抜いた刀身は手入れが行き届いていたため、冒険者の端くれに見えた。
感覚的には随分と長く寝ていたはずだが、体のどこも痛くない。やがて、これだけは確かだと思える事実を口にした。
「どうしよう。これ、あからさまに人間………………あっ!?」
突如、打たれたように立ち尽くす。
急激に記憶が流れ込み、あるべき自分を思い出した。
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