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たしか、レーゼ荒野では、はぐれの半竜人と動く亡骸の群れに出くわした。
ルークが戻ってからは総員戦闘態勢となったはずだが、そこからがうまく思い出せない。夢で見たティナの幼少時代のほうが、よほど鮮明だった。
ここが半竜人の里ということは、すなわち戦闘に勝利できたということ。なのに、なぜ気を失ってしまったのか。
(? 私、何かしたかしら)
歩きながら、おそるおそるギゼフに尋ねてみる。
すると、意外な答えが返ってきた。
「何を言ってる。あの亡者の群れを一掃したのはお前さんだぞ。白いほうの」
「白……?」
「魔力の色だ。お前さんは『黒』。ただし真っ黒じゃない。上等な夜光石みたいに、月のない星空を映した泉の色だ。あっちは、もともとの体の主なんだろう。かなり高レベルの浄化魔法だった」
「じょ、浄化!?!? うそっ。覚えてないわ」
思わず素に戻って口走ると、ギゼフが人の悪い笑みを浮かべた。
「前代未聞だな。聖魔法を駆使して己の下僕どもを屠る魔王なんざ」
「それは……言わないでほしい。そもそも、これは『ティナ』の体なんだし。多少の不可抗力は…………ん? 何?」
「いや別に」
「???」
妙に楽しそうなギゼフに、懐疑の念がいっぱいになる。まなざしをそれ一色に染めて見ると、ふと、真面目な顔で立ち止まられた。
「杖作りにしてもそうなんだが」
「はぁ」
話が見えない。首を傾げる。
ほかに扉はなかったので、ここが居間なのだろう。ギゼフはふだんと調子を変えることなく、淀みなく話し始めた。
「オレは、一見してそいつがどんな魔法を得意とするか、すぐにわかる杖は作らないことにしている。実戦では不利だし、個人で違うもんだからな。魔力の『色』は」
「そういうものなんですか」
「ああ。で、お前さんの魔力の『色』は相当珍しい。店に来たときは驚いた。聖なる錫杖に闇属性を付与すんのも、なかなか燃えたしな。旅に出てみれば、そのちっせぇ魔力量にも意味があるとわかった。結果、今もめちゃくちゃ興味深い」
「ど、どうも……?」
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