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「それは伯爵からのご要望?」
「……どうかしら。父が向こうの家へ何度か出向いて、いろいろ話をして、それでこの前舞踏会で伯爵から声をかけてきたの。きみさえよければ、私の奥さんになって欲しいと。子どもも、きみのような若い母親を望んでいるでしょうからって……」
相手の妊娠がきっかけでアルフォンスと別れ、母親を亡くした子どもを理由に結婚を望まれる。つくづく、子どもに縁がありそうだ。
「子どもの世話を任せるつもりで、自分の老後を看取らせる魂胆かな」
気持ち悪いね、と彼は足元の葉を踏みながら言った。ユーディットは父と同じ年齢の人間を紹介されるよりずっといいのよと心の中で答えた。
「それできみは結婚するの?」
「それしか、ないでしょう」
「家族のために自分の人生を犠牲にするわけだ」
「幻滅したでしょう?」
いいや、と彼はユーディットの方を振り向いた。陽の光な照らされた彼はとても眩しくて、けれどいつもどこか陰があった。
「きみの気持ちはよくわかるよ」
「……どうして今日わたしに会いに来たの?」
「もしかするときみが死ぬんじゃないかと思って」
たしかに婚約者に振られて、二十も上の男のもとへ嫁ぐ経緯は悲劇じみたものがある。でも、
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