◇02. お隣さんの、ハグ。

7/9

542人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
『なんでこんなことが普通に出来ないんだ』『奥さんなのになんでこんな帰り遅いわけ?』『ってか生活全般だらしなさすぎるよ。どうなってんの?』……ああ。過去の傷にいまだ蝕まれている。弱いわたし。 「どうした結愛ちゃん?」  見れば、青年が――長身を屈めて、わたしの目を覗き込んでいた。「なんか……悲しい顔してんね。どした?」  この青年は、ひとの変化に目ざとい。わたしが仕事で苛々していた日なんか、一発で、見抜かれてしまう。  わたしは笑い返した。「ううん。……っていうか、伊織くん。そろそろ……よくないよ」 「うん?」と言った伊織くんは、入るよ、と言ってわたしの横をすり抜けて中に入り、慣れた仕草で、タッパーをダイニングテーブルに置いてから、 「どした?」――そんな。  完全に気を許したワンコみたいな態度、……誤解しちゃうじゃないの。馬鹿。  すると実に自然な所作で青年は腕を広げた。「……おいで。結愛……」  だから。勘違いしちゃうじゃないの。馬鹿。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

542人が本棚に入れています
本棚に追加