◇06. お隣さんに、ときめかされる。

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 どうしようもなく。いっそ、このまま、彼の、あの、でかいドレッサーのあるオッシャレーな部屋に連れ込まれてベッドで抱きしめてくれたら、なんて欲する自分さえいる。……いかんいかん。彼はただの隣人だ。わたしの健康状態がひどいのを見かねて手助けをしてくれている、それだけであり、他意はない。誤解なんかしちゃあ、いけないのに……。 「……あんなに、泣かせてくれたのは、伊織くんが、初めて……なんだよ」勇気を出して。言ってみる。あんなにも、自分を、誰かに曝け出すのは生まれて初めてのことだった。特に、元の夫の件があって、以来、わたしは、他人にいつも――壁を築いている。  それを。このひとはたやすく入り込んだのだ。誰にも許さないと思い込んでいた領域に。領域展開。 「むしろ。あんな大泣きしちゃって恥ずかしいというか……伊織くんのあの、黄緑のシャツも、駄目になっちゃったと思うし」 「いや全然」あの日以来、あの、綺麗な色の、黄緑のTシャツを見ていない。会社員ではないとは思われるが。「知ってる? 大抵の汚れって、オイルクレンジングで落ちるんだよ。オイクレ、まじ最強」
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