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◆07. お隣さんは、悩んでいる。【伊織広大視点】
ふと切り取られた日常の切れ端のなかに鮮烈ななにかが混ざっていた。――恋。
紛れもなく。恋を、している。……あの子の笑った顔が大好きだ。いつも、笑顔にしてやりたい。
疲れているだろうときはそっと、なにも言わずに抱きしめてあげたい。あの子にご飯を届けるのが幸せだ。
仕事柄多くの女性のメイクをしてきたが、あんな鮮烈な感覚を味わうのは彼女が初めてだった。白石結愛ちゃん。ぼくの最愛のひと。
「ふぅ……疲れた」動画編集を終え、一息。そうだ。コーヒーを飲もう。豆を挽くところから始めるのがぼくのお気に入りだ。
お隣さんのことが気になって気配がないか探る自分がいる。……いや。平日の昼過ぎだからきっと、会社で、頑張って働いているだろう。結愛ちゃんは。……今度。
「お弁当でも作ってあげようかな……喜ぶかな……結愛ちゃん……」
美味しい、と言ってご飯を食べてくれるのが嬉しい。それ以外になにも望まない。平凡で平坦な日常さえあれば。
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