〇09. お隣さんが、心配性。【伊織姫香視点】

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「なに言ってんのお兄ちゃん」兄は、ドレッサーは自分のために使う主義らしく、あたしは、ダイニングでメイクをされている。巨大な、フランフランの、きらびやかなきらんきらんのミラーを前に。「いい感じで来たんでしょう? なら――ひいちゃ駄目じゃん。そんなに好きになれるひとなんてそうそう見つからないんだから。ちゃんと――後悔しないように動きなよ」  ここでインターホンが鳴った。あたしは、洋服が汚れるのがいやで、兄貴のメイクの実験台になるときは、上はキャミソール、だけにしていたのだが。――下手に誤解を与えた。  呆然としている来客に、慌ててあたしは説明をした。「いえ、これは違うんです。……あたし、伊織姫香(ひめか)、って言います。……伊織広大の妹です」  そうして、慌てて、玄関に置いてあったバッグからマイナンバーカードを取り出して見せる。写真も、完全一致。おねえさんの顔色が戻った。「あ……お邪魔しちゃったかな。ごめんなさい」 「いえ。あたしはもう、帰りますんで。――いいよねお兄ちゃん?」
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