〇09. お隣さんが、心配性。【伊織姫香視点】

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 ダイニングで腰を浮かせた兄貴。――幸せになるんだぞ。と願い、ニットとコートとバッグを手に取り、兄の部屋を後にした。兄の恋が無事に――成就することを願いながら。  自分が前髪ピンをつけたままだと気づいたのは、駅に到着したとき。やっけにイケメンな駅員さんが声をかけてくれた。やっば。花見町。……あたし、このひとと、恋に落ちたかもしれない。にこやかに去っていく駅員さんを名残惜しい気持ちで見送った……  じゃ、なくって。 「あの。すみません……!!」勇気を出して、声をかけた。振り返る駅員さんの動きがスローモーションに見えた。……ああ。ひとが恋に落ちる感覚って、こんなだったかもしれない。兄の恋がリフレインする。――ひとは、こうして、恋に落ちる。知らぬ間に。知らないあいだに。  *
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