◇01. お隣さんは、メシウマです。

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「よっしゃ」膝を叩いて立ち上がる青年。動作が機敏だ。鍛え抜かれた人間に特有の動き。「そんじゃ、失礼して、冷蔵庫からお持ちしますね。おすこしお待ちを」  すたすたと部屋のなかを突き進む青年の後ろ姿に、なんだか――笑えて来た。初対面の人間なのにやけに――親切で。  青年は白のロンTにチャコールグレーのニットベストを合わせていて、下がモカのテーパードパンツ。シンプルだが、質のいいものを着ている。無印好きそうだな。いやニコアンドもか。後ろを向くとベストの下からちょこんと覗くペンギン型の白Tの裾が可愛い。散らかったわたしの部屋のなかで動くさまがやけに美しくてがっつり……見惚れた。 「ほいさ」とわたしの寝るベッドの横で跪くと、青年はぱきぱきとペットボトルを秒で開封し、さっさとわたしに渡してくる。「起きる? ……あ、手伝うよ」  これでも五十人以上の部下を従える部長職だったりする。なのに。背を支えられて上体を起こすさまはまるで病人。こんなわたしを見たら部下は笑うだろうか。 「じゃあ、どうぞ」と片手で器用にペットボトルをくるくる開封する青年は、開け口をわたしによこしてくる。「お飲みなさい?」
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