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足が一歩一歩、勝手に踏み出していた。向こうも同じくで。――店を出たところで合流した。ガラス張りのこの店で、周囲の視線を集めるのも構わずに。彼は。迷わず。
わたしの元へと跪き、――
「白石結愛さん。ぼくと……結婚してください」
おいおいクライエントの結婚式の二次会の会場の前でそりゃあ、まずいんじゃないのかい? と思っていたら、すぐそこまで小林くんご夫婦が来ていた。――拍手。
通行人も何事かと見てくるくらいの、盛大な拍手に包まれていた。みんながーー見ている。辛くて。
ひとりで泣いた夜もあった。悲しい夜を幾重に持重ねて。でも――そんなのは、昔の話だ。遠い過去。古いアルバムと共に、記憶の底に、しまってやればいい。――新しい思い出で上書きするだけだ。人生とは、ひとのこころを彩る、虹。
美しい光景が目の前にあった。タキシード姿で、プロポーズをしてくる広大に、わたしは――ゆったりと微笑みかけ、
「……はい。喜んで」
わぁ、と歓声があがり、たちまち、広大に、姫抱きにされていた。そして。くるくると回される。――わたし。
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