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国境を越え、モリーナ王国へ
結局、いつものランニングコース上にある裏道を使って、モリーナ王国に向かうことになった。
アレックスたちの隠れ家で遭遇した連中が追ってくることは、容易に想像出来る。先程は、うまくごまかすことが出来た。
わたしの魅力にかこつけて、けむに巻いたようなもの。ベレー帽の男は、自尊心がありすぎるから逆にごまかしやすい。
もっとも、こんな方法もこれ以上は使えないかもしれない。もしかすると、もっと別の駒がやってくるかもしれないし。
追いかけてくるのも、すぐかもしれない。
フツーに追跡して来たら、今夜か明日か、とにかくそう長くはかからないはず。
おそらく、向こうはわたしたちがこの裏道を使うと確信し、この裏道を追ってくるに違いない。
だから、最初は街道を使うという案が出た。アレックスは、そう主張した。だけど、どうせベレー帽の男たちとは一戦交えなければならない。わたしたちが街道のルートをとり、彼らが裏道を追跡したとする。彼らは、わたしたちが馬車であることを知っている。ある程度の距離を追って追いつかなければ、すぐに街道に戻り、あらためて追跡を開始する。
小説の中の追跡者たちは、たいていそうする。
心配なのは彼らとの遭遇が遅くなればなるほど、あらたな追跡者たちとの遭遇と重なってしまうことである。黒幕は、あのベレー帽の男だけを黒幕に使っているわけではないはずよ。何人、何十人と用意しているかもしれない。黒幕がモリーナ王国の王都にいるとして、他の手駒を派遣する可能性は充分かんがえられる。
一度に複数の集団を相手にするより、各個撃破した方が断然いい。
そんな追跡物のストーリーのあるあるを充分考慮し、結果的に裏道を選択したというわけ。
ベレー帽の男たちは、そのあるあるをかならずや実践してくれる。わたしは、そう信じている。
その日の夜は、追跡者たちを警戒して休まなかった。
が、国境を越えてモリーナ王国に入っても、ベレー帽の男たちはやって来ない。
夜が明けたとき、もしかするとわたしの推測は間違っているのかと思いはじめた。
ベレー帽の男を信じていたのに、裏切られた気分である。
朝、街道に戻った。
国境近くにわりと大きな街があるらしく、そこで休憩をすることにした。
追跡者たちののことは、そうね。こうなったらなるようになる、と思うことにした。
それに、アレックスとアニバルが謎めいたことを言いだしたこともある。
ベレー帽の男たちが追って来れない理由があるのかもしれない、と。
美貌にいたずらっ子みたいな笑みを浮かべるアレックスと、いくら異腹とはいえ同じ父親を持つ兄弟とは思えないほど残念な顔にニヤニヤ笑いを浮かべるアニバル。
二人とも、どうやらその「追って来れない」理由を知っているみたい。
だけど、あえて尋ねなかった。
尋ねるかわりに想像してみた。
「ベレー帽の男の主が、殿下暗殺の命令を撤回したとか?」
「ちょっ……。ぼくの暗殺?」
「お嬢様、暗殺ってかぎらないじゃないですか。まぁ、それは暗殺の方がずっと「らしい」ですし、ある意味カッコいいですけれど」
「カルラ、なかなかいいかんがえだ」
「ありがとうございます、アニバル様」
わたしたちは、モリーナ王国の国境に近い街に立ち寄った。
宿兼食堂があったので、そこで休むことにした。
二部屋取り、ひと眠りする前に朝食をいただくことにした。
食堂は、街の人たちでいっぱいである。うまい具合に窓際の四人掛けのテーブル席が空いていたので、そこに陣取り、朝食のセットを注文した。
トーストにサラダ、目玉焼きにベーコン。ジャガイモのスープにサラダ、三種類のチーズまでついている。
どれも最高に美味しかった。
四人とも、じゃなかったロボの分も頼んだので、五人で一心不乱に食べた。
そして、食後に紅茶を飲みながら、やっと落ち着いて話をしているというわけ。
「いや、ちょっと待ってくれ。カルラ、暗殺の方が「らしい」とかカッコいいとか、そんなことないと思うのだが……」
「殿下。やはり、こういうときは命を狙われ、脅かされるべきです。そうでないと、盛り上がりません。面白くありません。そうでしょう?ただ拉致されるだけとか脅されるだけだったら、子どもですら拍子抜けしてしまいます」
「クミ。きみは、どうしてもぼくを殺したいわけなの?」
「ええ」
「……」
アレックスは、なぜかだまりこくってしまった。
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