金貨発見

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金貨発見

「ビビアナ、いまのうちに逃げるぞ」 「そうね。あっ、でも金貨を持っていかなくっちゃ」  手下を犠牲にし、ボスは逃げようとするのもあるあるよね。  二人が屋敷内に駆け込もうとした瞬間、ビビアナにだれかがすがりついた。 「ビクトリア、待ってくれ。おれを置いていかないでくれ。もう二度と離れたくない」  世界一バカで愚かで情けない元夫は、ビビアナの腰に腕を巻きつけぶら下がっている。  彼の中では、ビビアナはいつまでたってもビクトリアなのね。 「邪魔よ、このバカッ!」  元夫が気の毒すぎる。  彼は、ビビアナに頭を思いっきり殴られた。その拍子に腕の力が弱まった瞬間、振り払われてしまった。  ビビアナは、エントランスの大理石の床に崩れ落ちた元夫を蹴りはじめた。 「ミニモフモフ」  それを横目にしながらミニモフモフに声をかけて屋敷内に入り、そのまま奥へと駆けに駆けた。 「クミ、どこへ行くんだ」  エントランスから奥へと続く廊下をひたすらダッシュしていると、うしろからアニバルが尋ねてきた。  わたしの動きに気がついたのね。アニバルとカルラ、それからアレックスがついて来ている。  彼らのずっとうしろ、エントランスの方から怒号や悲鳴がきこえてくる。  悪の組織と、アレックスの命を狙う暗殺者集団の戦いがはじまったのよ。 「台所よ」  アニバルの質問に答えつつも足は動かしている。  台所はすぐに見つかった。 「な、なんだ?」 「だれだ?」  台所のテーブルで二人の男たちがカードゲームをしている。  わたしたちが乱入したものだから、二人とも弾かれたように立ち上がった。  さすがは悪党の手下ね。  二人とも、立ち上がったときにはナイフを握っている。 「クミ、下がってくれ」  その瞬間、アレックスがわたしの横をすり抜けた。 「カルラ、うしろに」  そして、アニバルも。 「ぎゃっ」 「ぐわっ」  ナイフを持つ男たちは、あっという間に台所の床の上に沈んだ。  アレックスとアニバルは、小説でヒロインの前でカッコつけたがるキャラ同様男たちにそれぞれ殴ったか何かしたんでしょう。  こういうあるあるも、あるあるすぎてまったく心に響かない。  作中のヒロインだったら、「キャッ、素敵」とか「カッコいい」とか言ってカッコつけしいを見直したり尊敬したりするんでしょう。  だけど、わたしは作中のヒロインではなくってリアルヒロイン。ついでに、カルラもリアルヒロイン。  だから、「ふーん」って感じで冷静に見つめることが出来る。フツーに受け止めることが出来る。 「キュッキュキュキュー」  それよりも、ミニモフモフの方がずっとクールだわ。カッコいいし素敵だわ。  彼は、見つけ出したのである。  フリオとビビアナが慈善活動で使う為に貯めた資金の隠し場所を。  床下に隠し場所があり、そこに金貨を隠している。カードゲームをしていた男たちは、その上にテーブルを置いていたのだ。カモフラージュになるし、見張りも出来るっていうわけ。  アレックスとアニバルが二人がかりで床板の一部を上げると、小説で海賊や盗賊がアジトに隠しているような木製の宝箱が現れた。ざっと見た感じでも、何十個とある。  そこでやっと、これらをせっせと貯金した本人たちが現れた。 「ボス、心配しないで。わたしたちがちゃんと守るから。だから、ボスたちはいまのうちに逃げて」  そう提案してみた。 「そうか。わかった。頼むぞ」  フリオは、まだ上半身裸のままである。  いいかげんシャツを羽織ったら?もしかして、筋肉を見せびらかしたいわけ?それとも、ただの露出狂?  それはともかく、いまの彼の返事で彼は素直じゃなくってただのバカだということがわかった。  フツー、見ず知らずのわたしの言うことなんて信じるわけないわよね? 「なにを言っているのよ。こいつらに金貨を横取りされるわ」  ビビアナがフリオにツッコんだ。
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