アレックス、クミに告白す

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アレックス、クミに告白す

「国王陛下と王妃殿下は、きみのファンでもある。きみのペンネームベルナルド・ゴメスの「黒バラの葬送」の大ファンなんだ。王妃殿下は、有名な画家でね。黒バラことエルバ・マルドネスのイラストを何枚も描いている。きみもまた、筆が遅い。きみも王宮の客室に閉じ込めて書かせたいらしい。おれは、きみも連れて行かなければならなかった」 「なんてこと。わたしまで?わたしまで閉じこめられて強制的に書かされるの?」 「お嬢様、お嬢様。また「そこ」、なんですか?」 「当然でしょう、カルラ?でも、黒バラのイラストって素敵よね。それは、すっごく見てみたいわ」 「クミッ!きいてくれ」  そのとき、アレックスがわたしの両肩をがっしりつかんできた。 「キュキュキュッ!」  その反動で、右肩上にいたミニモフモフが落っこちてしまった。 「まぁっ!ミニモフモフ、大丈夫?」 「ロボは、大丈夫。いまは、ぼくの話をきいてほしい」 「でも、『キュキュキュッ』って言っているわ」 「彼は、魔獣(・・)なんだ。大丈夫だよ」 「ああ、そうだったわね」 「キュキュキュキュー」  ミニモフモフが、激しく飛び跳ねている。  きっと、大丈夫って言いたいのね。モフモフってやっぱり可愛いわ。 「う……ううん……。クミ?クミだって?あの不細工で最低最悪の性格のクミ?」  そのとき、うめきながら元夫が起き上った。 「うるさいわね」 「うるさいっ」  わたしが一喝するよりもはやく、アレックスがわたしから離れて元夫に近づいた。それから、そのボロボロヨレヨレの汚れまくっているシャツの襟をつかんでひっぱった。 「ああ、そうだよ。彼女は、世界一素敵なレディのクミだ。元夫であるきみに伝えたかったんだ。彼女と離縁してくれてありがとうってね。彼女に手をつけず、蔑ろにしてくれてありがとう。ついでに、ほんとうの彼女を知ろうとしなかったことも礼を言うよ。すべて、くそったれのきみのお蔭だ。愚かきわまりないきみのお蔭で、ぼくは彼女を得ることが出来る。心から感謝するよ」 「え?おまえ、いったいだれなんだ?」  アレックスは、きょとんとしている元夫の襟から手をはなした。元夫の問いに答えることなく、わたしの前に戻ってきた。 「アレックス様、すごく素敵でした」  カルラがアレックスに声をかけると、アレックスは美貌を真っ赤に染めてかるくうなずいた。 「やるな、アレックス」  アニバルは、親指を立てた。 「殿下、感動ものです」  ベレー帽の男ドロテオは、なぜか感動している宣言をした。 「キュッキュキュキュー」  ミニモフモフにいたっては、大理石の床上で飛び跳ねていたかと思うと、いきなりビッグモフモフに変身してしまった。 「主よ。やるではないか」  モフモフ金狼の大きな体は、この広いエントランスに充分おさまっている。  これがわたしの別荘だとしたら、モフモフは確実にカルラに血祭りにあげられたことでしょう。  古くてそんなに大きくない別荘の玄関は、木っ端微塵になったでしょうから。 「クミ」  アレックスは真っ赤な顔でわたしの前に立ち、再度わたしの両肩をつかんだ。 「というわけなんだ。ぼくは、アニバルからきみの話をきいて興味を持ち、実際に会ってみて、その、確確信した。いっしょに来てくれないか。ぜひとも、きみを王都に連れて帰りたい」 「おおっ!ついに言ったぞ」 「素敵すぎます。感動的だわ」 「殿下、ヒューヒュー」 「主よ。キュッキュキュ―と申しておく」  アニバルとカルラとドロテロとビッグモフモフが拍手をはじめると、ドロテオが連れてきている私兵たちがいつの間にかエントランスに集まっていて拍手をはじめた。  あとで知ったことだけど、彼らはなんとかっていう貴族の私兵ではないらしい。国境警備隊の隊員だという。
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