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痛いところを突かれて何も言えなくなってしまった私は、口には出せない抗議の気持ちを瞳に込めて智くんを睨んだ。
それもニコニコ笑ったまま平然と受け流されてしまった。
「はい、もう反論はないよね。じゃあ、おいで」
再び腕を広げて差し出され、もう後には引けない私は仕方なく、恐る恐ると彼の胸に飛び込んだ。
その直後に背中に腕を回されてギュッと抱きしめられ、頬を彼の胸に押し付ける形になる。
意外とたくましい身体つきを服越しに感じるし、なんだかシトラス系のいい香りもするし、なにより今までにない密着具合にソワソワしてしまい、心臓がドクドクと脈打つ。
抱き合うシーンはドラマや映画で幾度となく経験してきたのに、こんなに胸が高鳴るのはなんでなんだろう。
「も、もういい?十分だよね!」
むず痒くなって身体を離そうとしたら、制止するようにさらに力を込められて身動きが取れなくなってしまった。
「‥‥ちょっと!」
「これはただのハグだよ。海外だと普通。これじゃあ荒治療の直前練習にはならないと思うんだよね」
「えっ」
「だから今度はこれね」
そう言うと、智くんは少し腕を緩めて私に顔を上げさせると、そのまま顔を近づけてきた。
頭の後ろに手を添えられていて、逃げることもできず、私は彼の唇を受け止める。
唇が触れ、キスされたと分かり動揺すると同時に、今度は唇の間を割いて柔らかいものが口の中に侵入してくる。
「‥‥!!」
驚いて彼の胸を押して離れようとするも、頭を押さえられて逃げることができない。
そうしてるうちに丁寧に歯列をなぞられ、舌が絡まり、どんどんと口づけは深くなっていく。
清純派として活動していた私は、ドラマや映画の撮影でこんな深いキスの経験はなく、慣れないキスに翻弄される。
「んんっ‥‥」
思わず声が小さく漏れてしまい、恥ずかしさで身体が火照った。
ようやく唇が離れると、智くんの唇は唾液でわずかに光っていて、それがなんとも艶かしい。
直視できずに思わず目を逸らした。
「婚約者ならこれくらいはするよね。本番に向けた荒治療ぎみの練習になった?」
「‥‥さすがにやりすぎだよ!人前でこんなキスはしないよ、きっと」
「するかもしれないでしょ?可能性のあることはリハーサルしとかないと」
またニコリと笑顔を向けられ、まだ何かあるのかと身構える。
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