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断る理由もないかと思い、本当に庶民が食べる家庭料理だと念を押しつつ私は了承する。
ご夫人はご満悦で隣にいるノヴァコバ議員に話しかけた。
『ねぇ、あなた。今度環菜がうちで日本の家庭料理を振る舞ってくれることになったの。あなたも日本食好きでしょう?とっても楽しみだわ!』
『へぇ、そうなのか。それは楽しみだ!』
『ということで、Mr.桜庭、環菜をお借りするわね。もちろんあなたも一緒に来てもいいわよ』
ご夫人は上品に笑いながら智くんに目を向ける。
『ちゃんと僕の元に返して頂けるなら、もちろん構いませんよ』
そう言うと、智くんは私の腰を引き寄せ、見せつけるように頬にチュッとキスをした。
『まぁ!ラブラブだこと!』
『ははは。Mr.桜庭は彼女にゾッコンなんだな。仕事に一直線な笑顔の貴公子の意外な一面が見れて面白いな』
Mr.ノヴァコバとMrs.ノヴァコバは実に楽しそうだった。
舞台の上にいる私はもちろん動揺することなく、「好きな人にこんなに愛されて幸せっ!」
というオーラを放ちながら微笑んだ。
ちょうど他の参加者が主催者である2人に挨拶に来たので、私たちはその場をあとにする。
その後も次々に様々な人と挨拶を交わし、そのたびに智くんは婚約者との仲の良さを見せつけるように私に触れた。
余裕が出てきた私は、それにちゃんと応えつつ、きれいに見える角度やより親密に見える仕草も計算しつつ演じた。
ガーデンパーティーも終盤に差し掛かった頃、ふいに『環菜!』と名前を呼ばれて振り返る。
この場で智くんではなく、私の名前を呼ばれることはないはずなので少し驚いてそちらを見ると、カタリーナとアンドレイの姿があった。
『カタリーナ!アンドレイ!』
『メッセージでやりとりはしてたけど会うのは久しぶりね!今日の環菜はとっても綺麗だわ!素敵!』
『カタリーナもそのドレスすごく似合ってるよ!』
私とカタリーナはキャッキャと2人で盛り上がる。
『環菜、そちらは?』
智くんにそう言われて、智くんとカタリーナが顔を合わせるのは初めてだったことに思い至った。
いつも会話の中で出していたから、すっかり顔見知りだという気分だったのだ。
『こちらはアンドレイの恋人のカタリーナ。私の友人で、プラハに呼んでくれた張本人だよ』
『はじめまして、桜庭智行です。カタリーナさんのことは環菜からいつも聞いていたので、実際にお会いできて嬉しいです』
智くんが王子様スマイルを浮かべてカタリーナに微笑みかける。
カタリーナはその笑顔にやや驚きながら、眩しそうに目を細めていた。
『カタリーナです。噂には聞いてましたけど、すごい破壊力の笑顔ですね‥‥。環菜から2人の経緯は聞きました。環菜がプラハに来てすぐ婚約を決められましたよね。きっとおモテになるでしょうに、そんなに即決で大丈夫なんですか?』
もともとカタリーナはあまり設定話を信じておらず疑っていたので、智くんに探るような質問を投げかけてきた。
きっと私のことを心配してのことだろう。
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