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『すごいですね。おっしゃる通りです』
『やはりね。今は日本で活動してるの?』
『いいえ。今はこちらに住んでいます』
『演技の仕事は?』
『‥‥‥』
答えあぐねていると、ちょうどそこに智くんが戻ってきた。
私が困っているように見えたのだろう。
私の横に立って牽制するようにニコリと笑いながらその男性を見る。
『僕の婚約者になにか?』
『あぁ、ちょっと話をしていただけだよ。もうお暇する。じゃあね、お嬢さん、また会えるといいね』
そう言い残すとその男性は風のように去って行った。
何者だったんだろう?と疑問に思いながら、その男性の背中を見つめていると、智くんに腕を掴まれてベンチから立つ。
「なに話してたの?」
「なんかよく分かんないけど、日本人か?とか、ここに住んでるのか?とかかな」
演技のことは芋づる式に過去の話に繋がりそうだからあえて言わなかった。
「困ってるように見えたけど?」
「そんなことないよ。あの人、何者なんだろう。智くん知ってる人?」
「いや、初めて見るな。議員ではないだろうし」
「英語のアクセント的にはアメリカ人っぽい感じがしたんだよね。それよりもう挨拶はいいの?帰る?」
「大丈夫だよ。帰ろうか」
彼に腕を差し出されて、そこに手を添えてエスコートしてもらいながら、私たちは議員の邸宅をあとにしてタクシーに乗り込んだ。
「それにしても、環菜がノヴァコバ議員のご夫人と次の約束を取り付けたのには驚いたよ。あの人、結構気難しいって有名なのに」
「そうなの?チャーミングな人だと思ったけど。それにただ世間話してたら勝手にそうなっただけで、私こそ驚いたんだけど。勝手に話が進んじゃって大丈夫だった?」
「むしろ大助かりだよ。こういうパーティーじゃなくて、個人的に邸宅に招かれるなんてなかなか得られない貴重なチャンスだしね」
「ふぅん、そういうものなんだ」
とりあえず問題ないみたいで良かったと胸を撫で下ろす。
そうこうしてると、あっという間に家に着き、ようやく舞台の幕が降りたのだったーー。
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