#15. 守りたい存在(Side智行)

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#15. 守りたい存在(Side智行)

その日は、家に帰る前からおかしいなと思っていた。 環菜に電話してもメッセージを送っても全く折り返しがないのだ。 いつもだったら、時間が空いてもあとで何かしら連絡がくるのに、今日は一切音沙汰がない。 なんだか胸騒ぎがして、残業で遅くなってしまったけど少しでも早く家に帰ろうと大使館を出る。 そんな急いでる時に限って、また音大生の三上さんが待ち伏せしていた。 「智行さん、お仕事お疲れ様です!今日は遅かったんですね」 「三上さんもこんな時間に一人で出歩くのはやめておいた方がいいんじゃないかな」 笑顔で応じながらも、早く帰れというニュアンスを言葉に含ませる。 残念ながら三上さんには全く届いていないようで、逆に喜び出した。 「心配してくださるんですか!嬉しい!」 「邦人がトラブルに合うと大使館が対応しないといけないですからね。だからぜひ仕事を増やさないで欲しいと思っています」 微笑みながら毅然とした態度で事実をストレートに伝える。 するとお嬢さま然とした笑みにピシッとヒビが入った。 「それじゃあ僕は急ぎますので。気をつけて帰ってくださいね」 サッサとその場を去ろうとしたら、「ちょっと待って!」と大声で呼び止められる。 これ以上騒がれたら面倒なので、しょうがなく足を止めて彼女に視線を向けた。 「なんですか?」 「智行さんの婚約者だっていう女、クロワッサンが美味しいことで人気のあの店で働いてますよね?」 「‥‥それが何か?」 平然とした態度を保ったが、内心驚いていた。 僕のことだけでなく、まさか環菜のことまでつけているのだろうか。 以前恋人がいた時には三上さんは静観していたし、恋人に近づくという様子はなかったから、環菜を気にするとは思っていなかった。 「まだ別れないんですか?そろそろ飽きる頃かなと思ったのに、なかなか離れないんですもの。パーティーにも連れて行ってるって聞きました。大企業の重役の娘である私の方がお役に立てると思うんですけど」 つらつらと自分勝手なことを言い出す三上さんにイライラしてくる。 役に立たないどころか、僕が目論んでいた以上に環菜は役に立っている、いや立ち過ぎているというのに。
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