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✳︎ プロローグ「憧れ」
教室のドアを開けると、賑やかだったクラスが一瞬静かになる。
その瞬間、クラスメイトの視線がこちらを向く。
毎日毎日「何だあいつか」と言わんばかりの視線が痛い。
そんなことにいちいち傷つく私はゴミだ。塵だ。二酸化炭素だ。
不要な存在。
この世界から捨ててくれと何度も思った。
でも、そんな私にも生きがいはあって…
ボーイズラブと…少女漫画。
特に、地味で普段から一人でいるような女の子が学校一のイケメンと恋をする、そんな運命的なお話。
そりゃ誰だって憧れる。
運命。
ぼっちだって、
コミュ障だって、
ゴミだって憧れる。
恋も、してみたい。
だけどやっぱり、現実はそうはいかない。
私は少女漫画の主人公のように華奢ではないし、良い性格してないから。
身長は166センチ。
中学の時にはすでに160センチを超えていた。
男子と比べても、私より背の高い人は一人か二人。
それに私は性格が悪い。
と、思う。
先生や友達からは優しいと言われることが多いけれど、小中学生の時男子に虐められてから心の中で奴らを罵っている。
「(チビのくせにうざいんだよ!)」
「(こいつらサッカー部だったよなぁ。足の骨砕いてやろうか!)」
足の骨は本気で砕いてやろうと思って、間接的に手を出したことはあった。
こんな私に、運命的な出会いなんて望めない。
昔のトラウマで異性に対して恋心を抱くことができないばかりか、頭を触られたりすると気持ち悪いと思ってしまうようになった。
高校生になった今も男子とまともに話すことができない。
自分から話しかける勇気すらないから、同じクラスの女子とも仲良くなれない。
結局ぼっちになった。
昼休みも一人でお弁当を食べて、部活勧誘に来た先輩が新入生全員にチラシを配る中、スルーされる存在になってしまった。
私はスルーした先輩のいる部活に入った。
合唱部だ。
うちの高校にある部活動の中でも、全国コンクール出場経験のある部だ。
だから、先輩がスルーしたことを根に持っているわけではない。
それに、昔から歌うことは好きだった。
家で歌うと父も母も「うるさい!」と怒鳴るけれど、思わず口ずさんでしまうくらい好きだ。
合唱部には中学時代に同じ部活をやっていた友達と入った。
それもあって部活中は気楽に人と接することができた。
先輩も厳しいけれど優しかった。
クラスではぼっちだけど、部活中は普通になれた気がした。
でも、側から見れば粋っているようにしか見えなかったのかもしれない。
――部活の時だけ粋る人――
同学年の男子、特に同じクラスの男子は私を見てそう思っていたようだ。
中学の時も私を虐めていた奴らは皆んな言っていた。
――友達の前だけ粋ってる――
それの何が悪いんだと何度も思った。
ぼっちは友達の前でも暗くないといけないのか。
大声で喋ったり、笑ったりしてはいけないのか。
「(ふざけるな!!)」
ああ、私はやっぱり少女漫画の主人公のようにはなれない。
私の憧れた運命の出会い、恋は、叶わない。
恋が、できない。
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