千年の桜

1/3
前へ
/3ページ
次へ
 何気なく降りた駅で私は人を探した。 「ここだといいけど……」  知らない町にいると、友人が言った。  名前も聞いたことのない町。  きっと、線路をいくら電車で走っても見つからない。  地図にも載っていない。  いつだったか、たった一人の友人が家出をした。  学校にも通わなくなった。  心配した友人の両親は、仲が良かった私に探してほしいと言った。  知らない町。  知らない通行人。  知らない店。  知らない空気。  ここは異界だろうか?  それらが、私をことのほか心細くさせる。  イチかバチかの賭けになっていた。  この町には友人の好きそうな桜だけが植えてあった。  ソメイヨシノ。  それは、千本もの桜が植えてある町。  あの人は桜が好きだった。  通行人にそこの公園についてやっとのことで聞くと、付近では夜桜公園とも呼ばれているんだそうだ。 「その名の通りに夜桜がとても綺麗なんだ」 「そう。もう少しだけ、探そう」   
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加