ありったけの愛で

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「乃条?」    店を出ようとした時、誰かが静流の名字を呼んだ。  静流も俺も立ち止まり、振り返る。   「あ、三島先輩」  どうやら静流の知り合いらしい男が、静流を見て手を振っていた。  静流が軽く頭を下げる。    その三島という男は、通路の人波が切れるのを待ってこちらに近づいてきた。    何だかずい分大人っぽい。同じ高校生には全然見えない。  胸ポケットからは煙草の箱が覗いている。   「偶然だな乃条、自宅こっちだっけ?」    なんかやけに馴れ馴れしいな。でも静流は笑顔で話してる。   「乃条、例の彼氏かい?」    そう言われ静流が俺を見た。静流はちょっと顔を赤くしてこくん、と頷いてくれた。   「そっか、本当だったんだ。残念。えと、木沙…省吾君?」 「はい、そうですが」 「そんなに睨むなよ。俺、彼氏持ちの女の子に手は出さないから」    え…俺、そんなにガンミしてた?   「じゃあな乃条、また部活で」  三島はそう言いながら去って行った。  
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