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デート
腕時計を確認する
10時50分
後10分で
私の初デートという幕が開く。
時が1分進む事に
脈打つ血管も大きくドクンッと
跳ねる感じがあった。
本当にこの服で良かったのかな?
この初デートの為に
わざわざ高いアパレル屋さんに行き
緑色のワンピースを購入した。
だけど…デートこの格好って
男性はどう思うのだろう?
もし…これで第一印象悪く見られたら…
こんな場違いなセンスをしてるんだと
思われたら…
ネガティブな思考回路が
私を支配する。
悪い意味で血管がはち切れそうだ。
不安でいっぱいいっぱいになっていると
「あの…赤井ミヅキさんですか?」
私の背後から
低音の渋い声が耳に届く。
声のする方へ身体を向けると
まず
ウッド系の落ち着く香水の匂いが
鼻を突き抜けて
興奮状態だった
精神状態を宥めるように
ノーマルな状態へとリセットさせてくれる。
そして目の前には
マッチングアプリの写真通りの
ダンディな顔立ちの男性が
両端の口角を上げて健やかに笑みをこぼしている。
「はい!ミ…ミヅキです!」
声が緊張からか上擦ってしまい
点呼確認で返事をする学生みたいな
返しをした。
「はじめまして。近藤 タクロウです。」
そんな私とは反対に
大人の余裕を感じさせる口調で
タクロウさんは自己紹介を始めた。
「今日は楽しい一日を過ごしましょうね」
出会ってまもないが
この人の醸し出す雰囲気には
何もかも包んでくれそうな
包容力がとって感じられる。
先程まで高ぶっていた
身体中の神経が
皆一斉に
冷静さを取り戻し
私本来の姿へと軸を戻してくれる。
「こちらこそ…よろしくお願いします」
「緊張なさってますか?」
「い…いえ!そ…そんなことは!」
図星だった。
「緊張が声に出てますよ。フフッ」
「…すみません」
弁護士だから観察眼が鋭いと思った瞬間だ。
「いえ、謝る事では無いですよ」
「緑のワンピースお似合いです」
その言葉を聞いて私の胸はキュッと
縮こまるように締め付ける。
初めての感覚だったので
これが何を意味しているのかが
私には分からなかった。
「早速行きましょうか、ミヅキさん」
さっきの胸の感覚に加えて
私の内面がゆっくりと温度を上げて
熱くなっていくのが怖いほどに
感じる。
このままだとのぼせるんじゃないかと
思える程だった。
ほとぼりを持ったまま
タクロウさんを隣にしたがえ
初デートが始まった。
異性と並んで歩くのなんて
何年ぶりだろう?いや、下手したら
経験した事が無いかもしれない。
私が口下手なのもあって
最初の5分程は言葉を交さず
ただただのんびりと
柔らかな風を浴びる時間が過ぎていったが
「どこか行きたい所はありますか?」
タクロウさんの方から
口火を切って
会話をエスコートしてくれた。
「え…えーと…映画館…とかですかね?」
咄嗟に考えを巡らせ
デートと言えば映画館だろう!
という方程式を恋愛ドラマで見たこと
があったのを思い出し
提案してみた。
見たい映画など無いけど。
「確かに良いですね。では行きましょう」
私の唐突な提案に対しても
タクロウさんはすぐに肯定してくれ
近くの映画館への行き方を
スマホで検索してくれる。
優しさで満ち溢れている
素敵な男性だと
改めて認識し、そのタクロウさんと
一緒の時間を過ごせているのが
出会って間もなく嬉しくてしょうがなかった。
その後
私達は近くのショッピングモール内に
入っている
映画館へ向かい
今ベストヒットと評されている
洋画を2人でポップコーンをつまみながら
至福の時を楽しんだ。
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