初恋

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初恋

それから私達は 映画館帰りに連絡先を交換して 解散した。 本当はもっとデートを堪能したかったけど 「最初はこのぐらいにしときましょうか」 タクロウさんの方から 素っ気ない感じで言われてしまった為 はい。と言わざるを得なかった。 『もっと一緒に居たい』 その言葉が本心だったが 伝えてしまうと 重い女に見られないかと ふと考えが巡った為 感情を身体の奥底まで封印した。 帰路の途で 電車に揺られながら 私は今日経験した 初めての感情は何なのかを考えていた。 タクロウさんと会った時に感じた 胸が熱く熱く沸騰するみたいに 押し上げる緊張感。 別れる時に 寂しさと虚無感で埋め尽くされた 寂寥感(せきりょうかん)に近い感情。 今まで経験してこなかった 感情が ものの2時間で 味わうことが出来た。 これはいわば恋というものなのでは? その気持ちをいやいやいやと 私の中でもう1人のわたしが否定をする。 これまで1人で過ごしてきて 生きてきたという 強がりが邪魔をする。 私には友達が居るから幸せだ。 家族と過ごしている時間は楽しい。 そう思い込み 私の理想を押し殺して 31年間もの間、現実逃避していた。 でも…もう無理して 気持ちを封じ込めなくていい。 私よ素直になれ。 手に持っていたスマホの画面を 開いて メッセージアプリにある タクロウさんのトークの所まで 迷いなく指を滑らせた。 「今日はとても楽しかったです!」 「映画館面白かったですね!」 ありきたりな2つの文章が しっくり来ず打ち込んでは 消してを繰り返し かれこれ10分程経っただろうか 心の底から思っていた 言葉を伝えることにした。 「私、タクロウさんのこと好きになっちゃい ました」 嘘偽りない自分の想いを 送信ボタンに乗せて 私の恋は走り出した。
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