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「片桐さんと桜井さん、別れたらしいよ」
「どっちから?」
「片桐さんだって。桜井さん、付き合ってみると女性として面白味がないっていうか、可愛げが無かったとか聞いたけど・・・・」
「わぁ、それ、きつぅ~」
はぁ、だから社内恋愛はイヤだったのに。私は思いっきり流水音をたてて、トイレの個室が有人だと主張してみた。個室から出て洗面の前に立つ。さっきまで面白おかしく私の別れ話をしていた二人組は、私を認識すると、そそくさと出ていった。
はい、私がその噂の当事者、別れを告げられたという桜井一華本人ですが、何か?
「なんなの」
今度は声を出して溜息をつく。鏡に映る自分の顔を眺め、また溜息だ。
なんか少し老けたような気がするのは気のせい?それとも眉間のしわのせい?幸せオーラが消えた女性はこんなものなのか。
先ほどの噂を訂正させて欲しい。別れを告げたのは私からだ。
私から別れ話をリークしていない以上、噂の出どころは片桐さんの方ということになるんだけど。そうゆうこと、言っちゃう感じの人だったのね、片桐さん。なんか幻滅。そんな男に惚れていたのか。
彼は会社では面倒味のよさと、仕事での交渉力の上手さ、爽やかな見た目で、社内イケメンズ・ランキングでもそこそこ人気のある人だ。そんな彼と付き合えて、ちょっとだけ自慢したい気持ちになったこともあったのは事実。でもね、プライベートでは結構、冷たいし、浮気性だし、皮肉屋なんだよと毒づいていた。
「もういい」
そう言って、飛び出した彼の部屋。いつも言い過ぎたと先に謝るのは私だったけど、その日はどうしても私から連絡をとることはなかった。それから1日が過ぎ、2日が過ぎ、もしかして彼の方から「ごめんね」と連絡をくれるんじゃないかという淡い期待は小さくなっていった。片桐さんから謝ってくれるなんて、やっぱり私の幻想だったんだ。
今回に限っては、絶対、彼の方が悪い。同じ会社にいるのに、1カ月もほったらかしにされた挙句に、私以外の女性を部屋に上げた痕跡があったのだから。私、怒ってもいいよね?
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