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新人と言われる時期なんて、ずっと昔にが過ぎていた私は、いつも通り仕事をこなさなければ、周りからなめられる。でも、周囲からの好奇の眼差しにさすがに気持ちが疲れてくる。
気分が上がらなくても、会社には行かなくちゃいけない。だって私は社会人7年目に入ろうとしているのだから。
そんな折、大学時代の友人の結衣花からお誘いの連絡をもらった。
「一華、今度の弓道部のOB会行かない?なんか現役の学生たち、団体戦で全国大会まで行ったらしくて。それのお祝いもあるみたい」
社会人を丸6年過ごせば、私の知っている後輩たちだって、勿論もう社会人。面識のない後輩たちの活躍を祝ってあげたくなるほど、弓道部に愛着はない。それに今、どうしたところで、そんな気分になんかなれないし。
「OB会はいいや」
出来れば、今は自宅で引きこもり生活でもして傷が癒えるのを待ちたい気分です。さすがに、そうは言えなかったけど。
「OB会の後、同期の有志で飲みに行こうっていう話が出てて」
「今回はパスで」
「えっと、もしかして気にしてる?楓君は来ないから、別に気まずくもないと思うよ」
結衣花の要らぬ気遣いに、忘れていた名前を思い出す。
楓君・・・懐かしい名前を聞いたな。楓君は私の元カレだ。
「楓君と付き合ってたのは学生時代だけだから。昔の話だし。別にもう、どうとも思ってないよ」
「楓君の方は、かなり引きずったらしいけどね。あれって、一華の方から振ったんだよね」
「そんなの忘れちゃったよ」
それは嘘だ。忘れるはずがない。あの日のことは、ちゃんと覚えてる。
楓君は私の人生で初めての彼氏だったし。そして私から『さよなら』を言った、最初で、このままだと、もしかして最後になるかもしれない、お別れを言った人。
『楓君、私達さ、社会人になってから、なかなか会う時間をとるのも難しいし、もう終わりにしよう』
社会人1年目の冬に私から別れを切り出したんだ。あの時の私は、会社で活躍する先輩たちの姿がまぶしく感じていた。それに引き換え、楓君は何かと歯がゆかった。楓君だって、私と同じ社会人としては新人だということを忘れていたんだと思う。先輩たちの年齢になれば、楓君だって頼りがいのある人になったかもしれないのに。そこまで思い至らなかった私は、彼がとても子供に見えて、そして物足りなさを感じてしまっていたのだ。
「別れたくない」
楓君からは、そう何度か言われたけど、電話やメールの着信も拒否設定して、私の方からすっぱりと切ったんだ。結構、容赦ないことをしたのかもしれないと今は思う。
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