別れた理由

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正直に言えば、心変わりというやつだったのかもしれない。その時の私には憧れの人が会社にいたから。それが桐谷さん。桐谷さんは同じ部署の先輩で、私の仕事の失敗のフォローをしてもらったり、仕事の進め方、取引先との交渉などなど、いろいろ教えてもらった人。最初は仕事の出来る先輩への憧れ、それが恋愛感情に変化していくのに、少しだけ時間がかかったけど、片桐さんの異動を知って、私から告白したのが社会人3年目の時だった。それから3年間、私達は付き合っていたはずだ。お互い、いい年齢だったし、結婚を意識していなかったと言ったら、それは嘘だ。少なくとも私は。 「卒業以来、弓道部の同期会、一華、来てないでしょ?たまにはどう?飲み会の前にOB含めた射会もやるって。久しぶりにやってみない?」 結衣花に重ねて誘われれば、まぁ、たまには会社以外の人との飲み会もいいかなって思えてきた。部屋の隅で埃をかぶったままになっていた弓矢に視線をやる。毎年、売っちゃおうかなって大掃除の日に思いながらも処分できずにいたんだよな。 「そうだね、射会があるなら行ってみようかな」 引きこもっているくらいなら、弓でも引いてみようか。少しだけ、いつものルーティンから外れたことをしてみたくなっていた。 出るからには、みっともない所は見せらないかな。 OB会の射会に向け、久しぶりに弓道場に通ってみたりした。元々、私は負けず嫌いだったのだ。でも6年間のブランクはそこそこ長かった。最初は全然引けなくて、ヤバイと思ったけど、何度か通ううちに勘みたいなものが戻って来る。これでも学生時代は、ウチの(だい)だって全国大会に行ったし、私はその中心メンバーの一人だったのだから。 「もしかして、いっかちゃん?」 何回目の弓道場通いの日だっただろうか。その懐かしい声に振り向けば、そこには・・・・楓君がいた。
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