3 初めての仲たがい

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 ルフは、明らかに迷惑そうな顔をする。 「オルボー、知ってるよね? ぼくは……」 「女も強い酒も嗜まねえのは、よおく分かってるって!」  耳許で大声を出されたルフは、うるさそうに眉間に皺を寄せた。  彼は信仰心が篤く、生涯貞操を守ることを公言している。 「でも腹は減るだろ? 俺も野薔薇館に予約を入れたら、先に腹ごしらえがしてえんだよ。おごってやっから、〝(みどり)のカワセミ亭〟でメシ食おうぜ?」 「えぇ……」  気が進まなそうなルフをオルボーはなんとか説き伏せると、今度は赤毛を後ろで束ねた先輩の方へと寄っていった。 「セティオさーん、メシ行きましょうよ!」 「えっ、おまえ娼館に行くんだろう?」  セティオと呼ばれた先輩は、さっと青ざめる。 「わ、分かってるよな? オレは巡回以外で花街に近づくわけには……」  セティオには、郷里に残してきた許嫁がいる。  嫉妬深く、疑り深く、行動力抜群の許嫁が。  セティオは業務日報よりも細かく日々の行動を記録してまとめたものを一週間ごとに婚約者宅に送ることを課せられているのだが、少しでも矛盾点があると、彼女はそれを追及するために遠路はるばるエルトウィンにまでやってくるのだ。  常に身を慎んで暮らすように心がけていたセティオの品行が買われ、新しく入ってきたアイリーネの同室者のひとりに選ばれてしまったときには、「その女性隊員を検分させてもらいたい」と許婚が駐屯地まで押しかけてきて、ちょっとした騒ぎになったこともある。 「一戦交える前に、まずは腹を満たしときたいんっすよお。花街の反対側にある〝碧のカワセミ亭〟ならいいでしょう?」 「えー……」 「あそこの二階は、婚約者さんがエルトウィンに来たときの定宿っすよね? 日付つきで『本日、セティオ・トゥントは確かにうちで食事しました』って主人に一筆書いてもらえば、きっと大丈夫っす! 牛肉の煮込みに貝の白葡萄酒蒸し、旨いっすよお?」  半ば強引にセティオとも約束を取りつけると、オルボーは満足げにアイリーネたちのもとに戻って来て、珍しく声を潜めた。 「――これで、部屋にはしばらくおまえら二人だけだぞ?」  セティオと同じく、敬虔なルフも、アイリーネたちと同室だ。  手柄でも立てたかのように、オルボーは得意満面の笑みを浮かべる。 「駐屯地から出たときだけなんて(かて)えこと言わずに、たまには宿舎でイチャついてスッキリしとけよ」    ◇  ◇  ◇
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