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『今日は、あなたたちにとても大切なお話をします』
シーン侯爵家で修行を始めて三年が過ぎたころ、女子の見習いであるアイリーネとオディーナだけが侯爵夫人の部屋に呼ばれたことがあった。
かつては騎士だったという経歴を持つ長身の侯爵夫人は、普段は大口を開けて笑っているような豪快な雰囲気の女性だったが、このときはいつもと違い少々かしこまった様子だった。
夫人は落ち着いた声で、大人になっていく少年少女の身体に起こる変化や、男女の営みを経て新しい命が生まれること、女性が騎士として生きていく中で気をつけなければならないことなどを、アイリーネたちに説明した。
子を成すために男女が行うことを簡単な言葉で知らされたとき、修行の一環で世話をしている家畜のことが浮かんだアイリーネは、「へえ、人も同じなのかあ」と思っただけだった。
オディーナも動物たちの繁殖を連想したようだったが、彼女の方はそれだけに留まらなかった。
夫人の話のあと二人で廊下を歩いていると、オディーナは悲愴な表情を浮かべ、「大好きな人に裸のお尻を向けるなんて……どうやって乗り越えたらいいの」と悲しげに呟いた。
オディーナがそれをしっかりと我が身に引き寄せて捉えていたことを知ったアイリーネは、内心とても驚いた。一方の自分は、まるで部外者のような心持ちでいたからだ。
当事者になったことを想像しようとしてみたが、霧に覆われているかのように何も浮かんでこなかった。
月日は経ち、あのとき侯爵夫人から聞かされたような変化が自らの身体にも訪れ、十五になって騎士の叙任を受け、若くしてオディーナが結婚し、同僚たちは日常的に娼館に通い、人間は必ずしも動物のような体勢で交わるわけではないらしいと知ってからも、男女の房事はアイリーネにとって相変わらず遠い世界の出来事だった。
そんなアイリーネに向かって、作業を終えて部屋に移動したルーディカは、冬に恋人との間に起きたことを包み隠さず打ち明け始めた。
◇ ◇ ◇
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