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ルーディカは物憂げな笑みを浮かべた。
「身ごもる可能性があるので不安だと言いましたら、キールトさまは『そうなったら、誰が文句を言ってもすぐに結婚する』なんて夢みたいなことを……」
思慮深いキールトが発した言葉だとアイリーネには思えなかった。
遊び人の同僚が、「可愛い子とヤるためなら、聞こえのいい美辞麗句がいっくらでもスラスラ出てくるんだよなあ~」などと調子よく語っていたのが頭をよぎり、さすがにキールトは違うはずだと心の中で打ち消す。
「それで私も、『現実を見てください!』って感情的になってしまって。キールト様の方も、『ルーディカは僕のことを信じてないんだな』って苦々しげにおっしゃって……」
ルーディカは哀しそうにうつむいた。
「きちんと話をしなきゃいけないのは分かっているんですが、また意見が噛み合わなくて険悪な雰囲気になるのが怖いんです……」
再び不穏になることを恐れているだけで、本当はふたりとも向き合いたいのだと分かったアイリーネは、まずは気軽に言葉を交わせるような機会を設けてみようと考えた。
◇ ◇ ◇
「あの青い看板の店?」
「はい。店舗は小さいんですが、外国でしか採れない薬草を乾燥させたものもあって、すごく品揃えのいい薬種店なんですよ」
次の日、アイリーネはルーディカとキールトを誘い、フォルザの中心街へと出かけた。
まだ直接話しかけたりするのはためらっている様子のふたりだが、アイリーネが片方と話しているときには、もう一方も隣で穏やかに相槌を打ったりして、徐々に距離が縮まってきているようだ。
「狭い店内なので、私だけ中に入って薬の材料を見てきてもいいですか?」
「もちろん。私とキールトはこのあたりにいるね」
「すみませんが、少しお待ち下さいね」
「慌てないで、ゆっくり買い物してきて」
温泉保養地ということで、目抜き通りには湯治客らしき人々がのんびりと行き交っている。
通行の邪魔にならないように道の端に寄り、アイリーネとキールトが温泉の泉質談義をしていると、突然華やいだ女性の声が響いた。
「まあっ、騎士様がたじゃありませんか!?」
声がしたほうを見てみると、赤味がかった金髪を無造作に束ねた可愛らしい女性が、驚きと嬉しさが混ざったような顔をして立っていた。
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