1 菜園の誓い

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 目の前の植え込みがガサガサと揺れたかと思うと、そこから小さな女の子が這い出してきた。 「……あ……アイリーネさま……」  海のような青い瞳が、アイリーネを見上げる。 「ル……」  この金髪の女の子が自分と同い年で、別荘番を務める夫婦の孫娘だということはアイリーネも知っているが、これまで近しく接するような機会はなかった。 「ルーディカ……?」  記憶をたどって名前を呼んでみると、女の子はぴょんと立ち上がり、花が咲いたようにぱっと微笑んだ。 「はい、アイリーネさま」  その愛らしい笑顔に、アイリーネは思わず目を奪われる。  服装は素朴だし、腹ばいになったせいか前掛けも汚れてはいるが、みずみずしい若葉の中に佇んでいる姿は、まるで絵本に描かれた美しい妖精の子供のようだった。 「どうして、こんなところから――」  アイリーネは、ルーディカのさらさらとした髪の毛先のあたりに視線を留める。  そこには、蝶々のような形に結ばれた水色の飾紐が、今にも毛束から抜け落ちそうになってぶら下がっていた。 「あ……」  ルーディカもそれに気づいて、急いで蝶結びを自分の髪から外す。 「ぜんぶ、おかえししたはずだったのに……」  呟きを耳にしたアイリーネはハッとした。 「もしかして、おねえさまたちにやられたの?」  ルーディカは大きく目を見開き、声を裏返らせる。 「えっ、あ、や、やられただなんて……」  おそらく、着せ替え人形にしてやろうと思っていたアイリーネが見当たらなくなった姉たちは、飾りがいのありそうなルーディカに目をつけたのだ。 「ルーディカがたのしかったのなら、いいんだけど……」  嘘をつきたくないのか、答えられずにおろおろとするルーディカを見て、アイリーネは胸の内を察した。 「おねえさまたちが、ごめんね」 「いっ、いいえ、そんな……」  恐縮しきりといった様子で、ルーディカは首を横に振る。 「し、しんせつにしていただきました。みたこともないようなおしゃれなドレスをきせてくださったり、かみにもいろんなかざりをつけてくださったり……」 「――でも、たのしくなかったんでしょう?」  ぐっと言葉に詰まったルーディカに、アイリーネは心からの同情を寄せた。 「だから、しげみにかくれて、ここまでにげてきたんだよね?」  伏せられた長い睫毛が、ルーディカの滑らかな頬に影を作る。 「……すみません。きょうは、たいせつなようじがあったので……」 「そうなの!?」  アイリーネは慌てた。 「ごめん、わたしもあしどめさせてるよね? まだまにあう?」  ルーディカは驚いたようにアイリーネを見つめると、ふわりと優しい笑みを浮かべた。 「だいじょうぶです」      ◇  ◇  ◇
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