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レフティネはスッと足を踏み出し、アイリーネとの距離を縮める。ふわんと甘い香りが立ち上った。
「北の荒くれ者集団なんて呼ばれてるエルトウィン騎士団ですけど、中にはハッとするような美形の騎士様たちもいらっしゃるって、よく同僚と話してたんです」
しっとりと濡れ光る瞳で覗き込まれ、アイリーネはどきっとする。
「ああ、近くから見てもこんなにお綺麗だなんて。黒髪の騎士様は、お休みのときでも女性の格好をなさらないんですね。すらっとした脚衣姿が、とっても素敵……」
声までいい匂いがしてきそうで、アイリーネは、これが一番人気のワザか……! と心の中で驚嘆する。
多くの男性はひとたまりもないのだろうとアイリーネが固まっていると、レフティネは「銀髪の騎士様も……」と、今度はキールトに流し目を送った。
「心からお待ちしてますね」
花から花へと移る蝶のように、レフティネは軽やかにキールトに歩み寄る。
「夜の街では小さな揉めごとなんてしょっちゅうでしたから、お忘れかと思いますけど――」
いつの間にか、丸く盛り上がった胸が触れてしまいそうなほど、レフティネはキールトに接近していた。
「あたしが乱暴な酔客に店から連れ去られそうになったとき、巡回中だった銀髪の騎士様が助けてくださったことがあったんですよ」
「……あ」
キールトが思い当たったような顔をすると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「その節は、ありがとうございました」
彼女がキールトを連れてきて欲しがっているとオルボーが言っていたが、じかに感謝を伝えるためだったのだろうかとアイリーネが思っていると、レフティネはとびきり甘い声で囁いた。
「お店に来てくださったら、お礼の気持ちも込めてたっぷりご奉仕いたします」
「え、あ……」
後ずさりしようとするのを押し止めるかのように、彼女はそっとキールトの腕に触れる。
まるで本当に恋しているかのような眼差しで、レフティネは熱心に誘い掛けた。
「噴水楼では新人なんで、野薔薇館よりも少しお手ごろに愉しんでいただけるんですよ?」
「い、いや、僕は――」
はっとしたように言葉を途切れさせ、キールトはレフティネの背後を見る。
視線の先には、ルーディカが青ざめながら立ちすくんでいた。
◇ ◇ ◇
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