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あのとき、背後にいたルーディカに気づいたレフティネは、「あら、なんて可愛らしいお嬢さん! 騎士様がたのお連れですか?」と朗らかに訊ねたが、程なくおかしな空気を感じ取り、軽く挨拶をして足早に去っていった。
その後、すぐにルーディカは無言で踵を返し、湯治客たちの間をすり抜けて姿を消してしまったのだ。
「あの……」
ルーディカは、華奢な腕で自分の膝を抱える。
「〝野薔薇館〟というのは……」
どこからかは分からないが、ルーディカも話を聞いていたようだ。
後ろめたいことなど何もないが、アイリーネは少し慎重になる。
「あ……駐屯地のそばに花街があるんだけど、治安維持のために見回ることがあって……」
「フォルザの〝噴水楼〟の名前は知っています。きっと、同じような場所ですよね?」
「う、うん……。でもね、ルーディカ」
ルーディカの唇がわなわなと震えているのを目にしたアイリーネはぎょっとして、慌てて強調した。
「巡回以外でキールトが花街に行くことはないからね?」
涙をこらえているのか、ルーディカは何度か深い呼吸を繰り返す。
「他の若い騎士さまたちは……」
「え?」
「同世代の皆さまは、そういうところに行かれるんですか?」
「ぜ、全員じゃないよ。信仰心が強くて固く貞操を守ってる人もいるし、私たちくらいの歳だと既婚者はほとんどいないけど、婚約者がいる隊員の中には花街のそばにすら近づこうとしない人だっているし」
同室のルフやセティオを思い出しながらアイリーネが言うと、ルーディカはぼそりと呟いた。
「……恋人や婚約者がいても、行かれる方はいらっしゃるということですよね」
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