6 満月の夜に 前

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6 満月の夜に 前

 アイリーネは困惑の色を浮かべる。  こんな風にくよくよしているルーディカを見るのは初めてだった。  「そういう人がいないとは言わないけど……頻繁に娼館通いしてるのは、決まった相手がいない独り身の隊員がほとんどだと思うよ」  さっきは言葉が足りなかったのかも知れないと、アイリーネはもう少し丁寧な説明を試みる。 「あの女性(ひと)、隣の教区にある実家に戻ってきたんだって。で、花街の巡回で会ったことがある私たちを偶然見かけて、声を掛けてくれたってだけだよ。キールトが個人的にそういうところに行かないっていうのは、私が保証するからね?」  これでしっかり伝わっただろうとアイリーネが思っていると、いつもならいたずらに裏読みなどせず、素直に物事を捉えるルーディカらしからぬ言葉が飛び出した。 「……本当は行きたいのかも知れませんよね」 「えっ」  青い瞳は、どんよりと薄暗く(かげ)っている。 「全面的に私たちを応援してくださっているアイリ様の目があるのと、同じ隊に婚約者がいると皆さんに知れ渡っているから、行きづらいだけで」  アイリーネはぎょっとした。 「ル、ルーディカ? なんだか思考が無駄に悲観的に……」 「あんなに魅力的な女性と一緒に過ごしたくない男性なんているでしょうか」  ルーディカは嘆くように言う。 「髪も唇もつやつやしていて、親しみやすそうで色っぽくて、体型だって私みたいに貧弱じゃなくて……」  内面も外見も美点だらけのルーディカが、他の女性にひどく引け目を感じているらしいことに、アイリーネはさらに驚いた。 「そ、そりゃ、あの女性(ひと)だって丹念に磨きをかけてるだろうし、愛想もいいとは思うけど、引き比べてルーディカが落ち込むことなんてないじゃない。キールトが好きなのはルーディカなんだから」  しばらく押し黙った後、ルーディカは再び口を開いた。 「……私がキールト様のことを想うように、キールト様も私のことを想ってくださっているのだと、少し前までは疑ったことがありませんでしたが……」 「実際その通りだよね?」  ルーディカは、しょんぼりとうなだれる。 「お互いの意見がぴたりと重なって、キールト様のお気持ちが手に取るように想像できていたころと違い、今は確信が持てなくなりました……」
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