7人が本棚に入れています
本棚に追加
目をぱちくりさせたままのルーディカに、アイリーネは言った。
「ルーディカはずっとキールトと気が合い過ぎてたから、ちょっと食い違いがあっただけで心配になっちゃうんだろうけど、ほら、ルーディカと私だって、仲はいいけど違うところは沢山あるじゃない?」
「え……ええ」
「趣味や興味の対象も同じじゃないし、しっかり考えてから行動するルーディカに対して、私は考えるよりも先に身体が動いちゃうし。――でも、一緒にいると楽しいよね。全く違う物の見方が新鮮だったり、なるほどって思ったり……」
恋愛関係にもそれが当てはまるのかどうかは知る由もないアイリーネだが、仲直りをして欲しい一心で、あえて確信めいた口調で言った。
「違いがあった方が、きっと面白いよ」
ルーディカは、目が覚めたばかりのような瞬きを繰り返す。
「あのね、休暇で駐屯地を離れるとき、エルトウィンの騎士たちは『コスクド・カールド・トゥラード』って声を掛け合うんだ」
アイリーネが口にした呪文のような言葉に、ルーディカは反応した。
「意味はよく分かりませんが、その響きは……北の地方の古語でしょうか?」
「そう。さすがルーディカ」
アイリーネは嬉しそうな笑みを浮かべる。
「『楽しい休日を!』って感じで使われてるんだけど、元々の意味は『大事な人と喧嘩したまま戻って来るなよ!』なんだって」
一度で耳に残ったのか、ルーディカは口の中で「……コスクド・カールド・トゥラード……」と繰り返した。
それが叶うかどうかは、ルーディカとキールト次第だ。
◇ ◇ ◇
最初のコメントを投稿しよう!