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「わあっ……」
小さな菜園の一画は、青い霞がかかっているように見えた。
近づいてみると、一本の茎に小ぶりの百合のような青い花をいくつもつけた植物が、群れをなすように植えられていた。
「きれいだね……!」
感嘆の声を上げるアイリーネに、籠を手に持ったルーディカが微笑む。
「〝いちにちばな〟なんですよ」
「いちにちばな?」
「はい。あさにさいて、よるにはしぼんでしまうんです」
「そんなおはながあるんだ」
「たいていのいちにちばなは、ひをずらしてつぎつぎにつぼみがひらいていくんですが、このあおいのは、ぜんぶのおはながおなじひにさくんですよ」
「へえ……」
空の色で染め上げたような花々をアイリーネが興味深そうに眺めていると、ルーディカはその中の一つにさっと手を伸ばし、花弁を付け根からもぎ取った。
「えっ」
目を丸くしたアイリーネを見て、ルーディカは申し訳なさそうに言う。
「きょうじゅうに、すべてをつみとらないといけなくて……。せんじてのむと、かぜのひきはじめにきくんです」
「おくすりになるの?」
「はい。つぼみよりも、はながひらいたときのもののほうが、ききめがいいそうなんです」
アイリーネは咲き並ぶ花を黙って見渡すと、ブラウスの袖を肘までめくり上げた。
「……わたしもやる」
「えっ」
「おねえさまたちのせいで、さぎょうがおくれたんでしょう? てつだわせて」
「そんなこと……」
伯爵令嬢にさせて良いものかとためらうルーディカに、アイリーネは胸を張って断言した。
「りょうちでは、おかあさまだってつちまみれになってバラのおせわをなさってるんだから、おこられるようなことはないよ!」
「そ、それじゃあ、おねがいします……」
程なくアイリーネは要領を掴み、手際よく花を摘みながら訊ねた。
「ルーディカは、おおきくなったらおはなやさんになるの?」
「えっ」
「それとも、おくすりやさん?」
ぱちぱちと瞬きをした後、ルーディカは少し恥ずかしそうに答えた。
「おとなになったときのことなんて、いままでちゃんとかんがえたことはありませんでした……」
「そうなの?」
「アイリーネさまは――」
「アイリでいいよ」
「アイリさまは、きしになられるんでしょう?」
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